咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

夢の街の話  1

 バクという動物は夢を食べるといわれています。

 

 ある街の動物園に、新しく、バクが来ることになりました。             小さな動物園で動物の数も少なかったし、みんなは、バクという動物を見たことがありませんでしたから、みんなワクワクして待っておりました。          

「バクというのは、大きいのかな」         

「どんな声で鳴くのかな」

  みんな、よるとさわるとバクの話でモチキリでした。                         

 その街は他の街からポツンと離れていて、みんな淋しかったのでした。

 

 ところがある人が、とんでもないことをいい始めました。                        「バクは、人の夢を食べるのだそうだ」 みんなはもうビックリしてしまいました。

 そんな生き物がこの世にいるなんて、思ってもみませんでしたから。     

「夢って、寝てみるアレかい?」

「きっとそうだ」

「じゃあ、バクに食べられるから、私たちは夢を見られなくなるか?」                     

 街は大騒ぎになりました。  

 朝早くから、夜遅くまで大人も子どももバクの話をしました。  

 騒ぎは街の委員会に報告されました。

 委員会の人たちは話し合った結果、市長さんにみんなが困っていることを報告することにしました。

 市長もみんなが困っていることを知っていましたが、委員会の人が報告してくれるのを待っていたのです。

 市長さんは動物園の園長さんをよびました。  

「バクのことをくわしく調べなさい」

 そして市長は念をおしました。  

「本当に夢を食べるのかどうか」

 市長さんも自分の夢を食べられるのが心配だったのでした。                       「バクが夢を食べるのかどうか、調べてきなさい」

 園長さんはバクの飼育係に決まった人にいいました。

 園長さんもやはり心配だったのでした。                                             

 飼育係さんは、遠くの街にバクのことを調べに行きました。

                    

 一月たち、二月たっても飼育係さんは帰って来ません。                           

 みんなは心配しはじめました。

「どうしたのだろうか」                        

「もしかしたら、夢を食べるなんて、怪物のような生き物かもしれない」                              「飼育係さんは、怪物にやられてしまったのかも」                                           

 やがて、みんなが心配することを忘れてしまった頃に、飼育係さんが帰ってきました。

 遠くの街への旅で、飼育係さんは疲れはてていました。

 そんな飼育係さんの姿を見た人たちは、飼育係さんがとても苦労をしたことを思い出して、大喜びしました。

 飼育係さんはみんなを大喜びさせたくて頑張ったので、みんなが大喜びする姿をみて、深く喜びました。                                                 「バクは怪物ではなかったのですか?」                   

「怪物にやられませんでしたか?」                                               

 騒ぐみんなに、飼育係さんはホコリにまみれた顔で少し笑って、動物園の園長さんに報告に行きました。

 やがて、飼育係さんは園長さんに連れられて市長さんのところに報告に行きました。

 そして、飼育係さんは、市長さんと園長さんと一緒に、委員会のところに報告に行きました。

それから、委員会のとりはからいで飼育係さんが街の広場でみんなに報告することになりました。