咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

はざまの世界カミサマ.31 胡蝶

赤狐は「花」として「この世」で生きた物語を忘れていました。 「はざまの世」は、さまさまな「この世」とつながっています。 それは、「過去のこの世」であったり、「未来のこの世」であったりします。 「はざまの世」がもっとも「この世」とつながりやすい…

はざまのカミサマ.30 胡蝶

「風だ」 白狐は、黒い狐面の女が、かつてそう呼ばれていたことを思い出しました。 風。 このクニの人たちは、雪月花と同じように、 風を愛します。 けれども、雪月花と風は違います。 風は、雪を散らし、月を隠し、花を溢します。 風には姿がありません。 …

はざまのカミサマ.29 胡蝶

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえて冷やしかりけり そう歌うほど、このクニの人たちは、花や月や雪を愛しました。 「哀れや、ほととぎすは、その歌声だけを愛されたか」 黒狐の微笑みは広がります。 赤い狐面の従者は、自分がかつて「花」と呼ばれたこと…

はざまのカミサマ.28 胡蝶

「雪。月。花」 黒狐の面のつぶやきに、三狐神が振り返ります。 白狐は「雪」 青狐は「月」 そして赤狐は「花」。 かつて、彼らは、そういう名で、呼ばれたことがありました。 雪。月。花。 それらは、このクニで「美しい」とされるものです。 けれど 雪は溶…

はざまのカミサマ.27 胡蝶

はざまのカミサマが冬蛾に与えた姿は、 朽ちた木の葉のような冬蛾を凍らせた姿でした。 凍りついた冬蛾の羽は、月光の下で、まぶしくきらめきました。 冬蛾のイノチは、「この世」の最後に、紅梅と出逢えて幸せでした。 その幸せが、紅梅を寿ぐ「美しい」と…

はざまのカミサマ.26 胡蝶

「紅梅は自分が美しいことを知らなかった」 黒狐面の言葉が、三狐神の頭の中で直接響きます。 「沢山のイノチを看取った冬蛾は、沢山の言葉を預かっていた。それらの言葉は未来への祝福だ。すべてのイノチは、「この世」から「あの世」に逝く時に未来を祝福…

はざまのカミサマ.25 胡蝶

はざまの世では三狐神が「その世」をながめていました。 この冬蛾が、あの紅梅がいる「その世」は、 たくさんある世界のうちのひとつで、 かはたれどきに、はざまの世とつながった世界です。 何故、はざまのカミサマは、冬蛾に凍蝶の姿を与えたのだろうか? …

はざまのカミサマ.24 胡蝶

夜と朝の境界、かはたれとき。 昼と夜の境界、たそがれどき。 たそがれときやかはたれときには、 「はざまの世」が、「あの世」や「この世」とつながりやすくなります。 はざまの世から舞い降りた胡蝶の精霊は、かはたれどきの「その世」でした。 紅梅がいる…

はざまのカミサマ.23 胡蝶

月に照らされて眠っていた紅梅は かはたれ時に、目覚めて花びらを開きます。 紅梅は、冷え切った冬の風に吹かれる中に 胸を張って花びらを開きます。 その冬の風に乗って凍蝶が舞い降りてきます。 紅梅の花びらをかすめて凍蝶は落ちてゆきます。 紅梅は、凍…

はざまのカミサマ.22 胡蝶

胡蝶の精霊が舞い降りた「その世」は、月光の下にありました。 「その世」は三日月の下にありました。 けれども、夜ではありません。 その世のその時は「かはたれとき」でした。 「彼は誰時」は、「誰そ彼時」の反対です。 夜と朝の境界にあるのが、「かはた…

はざまのカミサマ.21 胡蝶

はざまのカミサマに、新しい姿をいただいた胡蝶の精霊は、紅梅のいる「その世」に向かいます。 「紅梅は、いや、寒梅は、 イノチが絶えたこのクニに、 新しいイノチが咲くことを告げる花。 最初に咲く花は、誰にも愛でられることはない」 黒狐は、胡蝶の精霊…

はざまのカミサマ.20 胡蝶

「美しい。あなたは美しいのだ、と」 冬蛾はつぶやきました。 「美しい、だと」 青い狐面が繰り返します。 雪を割って、冬を割って咲く紅梅。 その凛とした勇気。 この世の最期に出逢えた相手が あなたでよかった。 出逢いは別れとつながっていることを 冬蛾…

はざまのカミサマ19 胡蝶

「そんなお前の望みは何か?」 青い狐面の声がはざまの世に響きます。 「胡蝶ならば結べぬはずの紅梅との縁を、冬蛾ゆえに結ぶことが叶ったお前は、紅梅と、どうなりたい?」 青い狐は胡蝶の精霊を責めるように問います。 「どうなりたいとも望みませぬ」 胡…

はざまのカミサマ 18 胡蝶

胡蝶は、冬蛾は白と黒だけの世界にいました。 その冬蛾が、紅い花を見ます。 あれは、雪を溶かす「ともし火」か。 冬蛾は、そう思いました。 自分はひとりではないのだ。 冬蛾は、そう思いました。 自分は、生きていても良いのだ。 冬蛾は、そう思いました。…

はざまのカミサマ17 胡蝶

潮騒が聞こえた。 白い狐面は、青い狐面の心に海を見ていた。 海に囲まれたこのクニでの、 どこの、いつの記憶だろうか。 「ほう、海が見えたか」 青狐の声に白狐は心の鎧を閉じた。 他人の心を覗く時には、自分の心を開いている。 白狐は青狐の心に見えた海…

はざまのカミサマ 16 胡蝶

冬蛾の物語を聞いていた赤い狐面が、鼻を鳴らします。 春、夏、秋の命と 春、夏、秋、冬の命。 そこにどれだけの違いがあるというのか。 三狐神の一員である赤い狐面は、 この「はざまのカミサマの世」に、 いつからいるのかを憶えていません。 いつからか、…

はざまのカミサマ15 胡蝶

自分は「罰」を受けているのだ。 冬蛾は、そう思いました。 冬蛾は、春、夏、秋と花と戯れて生きてきました。 いえ、花たちと戯れたのは、ほんとうは冬蛾ではなく、モンシロチョウや揚羽蝶などの胡蝶たちです。 けれども、冬蛾は胡蝶たちや花たちと同じ時間…

はざまのカミサマ 14 胡蝶

冬蛾は不思議な生き物です。 冬を生き抜くので「冬蛾」と呼ばれるのです。 冬蛾は、朽ちた木の葉に似た羽を、ひそと広げて動きません。 そのままの姿で、冬蛾は、ほかの生き物が死に絶える冬を生き抜きます。 冬はあらゆる生き物を「この世」から追い払いま…

はざまのカミサマ13 胡蝶

「胡蝶よ、お前の物語を聞かせておくれ」 三狐神の背後で女の声がしました。 三狐神が振り向いたそこには、黒い狐面をつけた女人が膝をついていました。 はざまのカミサマを東は青狐、南は赤狐、西は白狐と三方からお守りする三狐神。 はざまのカミサマは三…

はざまのカミサマ12 胡蝶

青白く月夜に浮かぶ雪の海の上を、 黒揚羽は真っしぐらに飛びました。 が はたはた、と、黒い羽根を月光に閃かせます。 黒揚羽は紅梅の周りを舞い飛びます。 「梅は花を結んだか」 赤い狐面が舌打ち。 夜の闇の中でも、揚羽蝶には紅梅の位置はわかります。 …

はざまのカミサマ 11 胡蝶

漆黒の揚羽蝶が飛び込んだ世界をみて 三狐神はそろって息をのみました。 「その世」には夜が来ていました。 たくさんある世界の中のただ一つが、 胡蝶の精霊が知る、あの紅梅が咲いている 「その世」なのです。 黒い夜を飛ぶ黒い揚羽蝶、 また、見失うことに…

はざまのカミサマ10 胡蝶

赤い狐面が舌打ちしました。 その時には胡蝶の精霊は、三狐神の前に、 つまり、はざまのカミサマの世界に戻ってきていました。 見失ってしまったので、赤い狐面の妖力がモンシロチョウに届かなくなってしまったのです。 妖力が届かなくなれば、モンシロチョ…

はざまのカミサマ 9 胡蝶

「ほう」 あれが、梅の花か。 赤い狐面の従者は、その言葉を飲み込みました。 白い雪が降り積もった枝の上、 白い雪の重なりを割るように、 紅い蕾みがひとつだけほころんでいました。 「潔し」 赤い狐面の隣で、白い狐面がつぶやきます。 青い狐面も紅梅に…

はざまのカミサマ 8 胡蝶

モンシロチョウは、ハラハラチラチラと飛び回ります。 モンシロチョウは、いつか雪景色の中を飛んでいました、 「白い雪に白い蝶か」 白い狐面の従者がクスクスと笑いました。 三狐神は胡蝶の精霊が「飛び込んだ世界」を見透かしました。 はざまのカミサマの…

はざまのカミサマ 7 胡蝶

「ほう、モンシロチョウの姿か」 青い狐面の従者がつぶやきます。 このクニでは、胡蝶の姿は「不老不死」を意味することがあります。 春、夏、秋、冬の四季の区別が鮮やかなこのクニならではのことかもしれませんね。 春に生まれ、夏に華やぎ、秋に実り、冬…

はざまのカミサマ 6 胡蝶

青狐面、赤狐面、そして白い狐面の三狐神が どうして胡蝶の精霊をかまったのかは、わかりません。 いつも三狐神は、 通り過ぎてゆく「イノチ」を見つめているだけです。 三狐神の、 いや、すべての精霊の王である「はざまのカミサマ」が無言であるように。 …

はざまのカミサマ.5 胡蝶

青狐のいうとおり、梅は雪を割って綻ぶ花。 春、夏、秋を舞い遊ぶ胡蝶と出会うはずはありません。 「寒梅とまみえたい、いうことか?」 白狐が胡蝶の精霊にたずねます。 「結べぬはずの縁を、寒梅と結びたいのか」 「私は言葉をかけたいのです」 胡蝶の精霊…

はざまのカミサマ.4 胡蝶

はざまのカミサマの世界に「イノチ」がひとつ、やってきました。 「イノチ」は、かつては胡蝶の精霊であったといいます。 胡蝶の精霊には、はざまのカミサマにかなえてもらいたい願いがありました。 強い願いや思いを残した「イノチ」は、 「この世」と「あ…

はざまのカミサマ 3

このクニで、狐がカミサマのお使いになったのは、 このクニの人たちがお米を食べるようになった頃かもしれません。 人々は、稲穂と同じ黄金色をしたケモノのことを「特別なイキモノ」だと思いました。 このクニの人々は、あらゆるモノは年を経ると「カミサマ…