咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

2019-12-24から1日間の記事一覧

遠くの赤い風船.2

赤い風船は、街で一番高い通信塔の、そのてっぺんからさらに上にいましたから、赤い風船からは街中の全てが見えました。 街中のみんなの顔が見えました。 おじいさんもおばあさんもおとうさんもおかあさんおにいさんもおねえさんもおとうともいもうとも、み…

遠くの赤い風船.1

その街の高い通信塔には、赤い風船がひとつうかんでいました。 今から三年前の夏に、街に初めてサーカスがやってきた時に、その風船は揚げられました。 それからはサーカスもやってきませんし、 他にこれといって嬉しいこともないまま、赤い風船は街の人々に…

遠くの赤い風船.3

「どうして誰もぼくを見てくれないのかな?」 赤い風船には不思議に思えました。 こちらからは、こんなに見ているのに、あちらからは、まったく見ない。 赤い風船にとって、それは大きな「なぞ」でした。 そうそう、赤い風船には、他にも「なぞ」がありまし…

遠くの赤い風船.4

風はめんどくさそうに、ちょっとつむじを巻きながら答えました. 「窓の向こう?何もないよ.いつも街にいるみんながいるだけさ。子どもと大人と老人がいるだけだよ」 風はもうひとつつむじを巻くと、どこかにいってしまいました。 風の後ろ姿を見送って、赤…

遠くの赤い風船.5

「ああ、あれは病院なんだ.それでね.ほら、あの窓は北向きにある。だから、あの窓からがお日様が見えないんだ。あの窓ぬ向こうには小さな女の子が入院している」 「入院?」 「それで、その子はお前のことを『お日さまの赤ちゃん』と呼んでいる」 「お日さ…