咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

神さまになったクモ 3

それからしばらくして、音楽会の日がみんなに伝えられました。

いつもの年よりも早い音楽会でした。

音楽会までの問、クモさんもケムシさんもいつもと同じ様に、つまりクモさんは一日に10回はお茶を飲んで、ケムシさんは一日中パイプをふかしてくらしていました。

村は音楽会のうわさでもちきりでした。

指揮者のバッタ君などは、どこの家でも歓迎されました。みんなは音楽会をとてもたのしみに待っていたのでした。

いよいよ音楽会の夜がやって来ました。

空いっぱいの星の下で音楽会は始まりました。

クモさんもケムシさんもミノムシ君も、みんなも来ておりました。

 バッタ君をはじめとして、マツムシ、スズムシ、クツワムシにコオロギ、ウマオイ君たちもいます。みんながみんな一所懸命に歌います。

 

みんなはとても一所懸命だったので、みんなはとても美しかったのです。

 

月が傾きかけた頃に音楽会は終りました。

みんなはそれぞれの家へ、いろんなおしゃべりをしながら帰って行きました。

クモさんとケムシさんは、黙って月夜の道を歩いておりました。

月がきれいだね」

「ああ、まんまるだ」

  クモさんはため息まじりにいいました。

「運命なんだね」

  ケムシさんがぽつりといいました。

 クモさんもケムシさんも、バッタ君たちとお別れするのが悲しかったのでした。

 みんなが大好きなのでした。

 クモさんとケムシさんは、蒼くのびた月夜の道をゆっくりと帰って行きました。

 その翌日も素晴らしくいいお天気でした。

  真赤に染った木の葉に柔らかな秋の陽がさしておりました。

「おはようございます」

 ミノムシ君がにこにこしながらやって来ました。

 昨晩帰りがおそかったので久しぶりに朝寝坊をしてしまったクモさんは、朝のお茶の用意をしているところでした。ケムシさんも目さめのパイプにタバコをつめていました。

「おはよう」

 クモさんも、ケムシさんもにっこり笑ってミノムシ君にあいさつしました。

「なんだか音楽会が終ると、本当にすぐ冬が来るみたいな気がしますね」

「そうだね、今もクモさんとそろそろ冬じたくをはじめなければ、といってたところさ」

「ははは。ところでクモさん、ぼくの冬じたくはできてますか?」

「ああ、もうできあがっているよ」

 ミノムシ君のお茶を持って来たクモさんが、にっこりといいました。

「昨晩は、その、よかったね」。

  ケムシさんがゆっくりと煙を吐いて、ミノムシ君にいいました。

「ええ、みんな一所懸命でしたからね」

「そうだね。みんな本当に一所懸命だったね」

「はい、おまちどおさま」

  クモさんがきれいにつくろったミノをミノムシ君へ渡しました。

「いやどうもすみません。このミノのおかげで冬が越せるもんですから」

「けど今年は冬がきびしいそうだから、私にもひとつミノを作ってもらおうかな」

 ケムシさんが笑いながらいいました。クモさんも笑いました。

「そうだね、私たちもミノがあれば楽に冬がこせるかもね。 ミノがあれば誰だって」

そういってクモさんはハッと気づきました。

「そうだ、どうして今まで気づかなかったんだろう。 ミノだよ。ミノがあればバッタ君達も冬がこせるかもしれない。」

 ケムシさんもミノムシ君もびっくりしましたが、クモさんの話しを聞いて、なるほどと思うと、なんだかワクワクしてきました。

 そしてそれからすぐに、お茶をぐいっと飲みほして、ちいさな野原のすみにあるバッタ君の家へ行きました。

 バッタ君は、もうびっくりしてしまいました。

「冬がこせるのですか? ぼくが?     ぼくが?」

 バッタ君は、もうあきらめていたのでした。

 そのための音楽会はもう終っていましたから。

 そんなバッタ君に、クモさんとケムシさんとみの虫君が、かわるがわるに説明しました。

「とにかく私がミノを作るよ。なあに、すぐにできる。できるさ」

 クモさんは、もうにこにこ顔でいいました。

「冬がこせる、のかあ」

 バッタ君は、まだぼんやり顔でいいました。

「それなら、春が見れるのか」

 バッタ君は目がさめたような顔で、クモさんにいいました。

「それなら、春が見れるんですね」

  クモさんは、びっくりしてうなずきました。

「そうか、春が見れるのか、そうか。ぼくは夏になって生まれたんで、春を見たことがないんですよ。春か。いろんな花が咲くんですってね。春か。とても素敵なんですってね」

 クモさんもケムシさんもミノムシ君も、なんだか胸が熱くなって来ました。

「そうだよ。とても素敵だよ。春って」

  ケムシさんが静かにいいました。

「あのう」

 その時、今まで黙っていたイナゴ君がおずおずと口を出しました。

 バッタ君のイトコのイナゴ君が、 最後のお別れをいいに来ていたのでした。

「その、できれば、ぼくの、あの、ミノも作っていただきたいんですけど」

「いいとも、いいとも」

 クモさんは目を細めながらいいました。

 イナゴ君は飛びあがって喜びました。

  そしてバッタ君と二人で大はしゃぎしました。

 二人がはしゃいでいるのをにこにこしながら見ていたクモさんは、ちょっときびしい顔をしていいました。

「さて、そうと決れば早い方がいい。さっそく作りはじめることにしよう」

 ケムシさんもうなずきました。

「よろしくお願いします。」

 バッタ君とイナゴ君は、姿勢を正して頭をペコリとさげていいました。

  クモさんとケムシさんとミノムシ君は晴れやかな顔をして家を出ました。

「クモさん」

 ミノムシ君が赤くなりながらいいました。

「私の口からいうのもなんですけど、その、よろしくお願いします」

「はい、はい」

 クモさんは明るく笑いながらうなずきました。

 ケムシさんも微笑んでうなずきました。

 ミノムシ君と白菊の丘で別れて、クモさんとケムシさんはウキウキとした歩どりで帰って行きました。

そしてさっそく二人で持てるだけの木の葉を集めました。                   

その夜、二人はワクワクしてなかなか寝つかれませんでした。

細いお月様が空にゆれておりました。