咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

神さまになったクモ 5

それからクモさんは、朝早くから夜遅くまで、ひたすらミノを作りました。

ケムシさんが用意してくれた食事やお茶も、そのまま冷たくなっていることがしばしばありました。

十着目までは、すぐできました。

二十着をすぎて二十八着目になると、それまで赤や黄色のきれいな木の葉が入っていた蓑が、みんな枯葉色になりました。

ある晩、木枯しの音にまじってクモさんの家のドアを、ノックする音がありました。

誰だろうと思ってケムシさんが開けて見ると、村長のトノサマバッタが外に立っていました。

「今晩は、夜遅くすみません」

「今晩は、どうしました?」

「いえ、別にどうってことは。 その、クモさんはまだお仕事ですか?」

「ええ。呼びましょうか?」

「いえいえ。お仕事のおじゃまになると大変ですから」

「そうですか。あ、お茶でもいかがですか?」

「いえ。すぐ失礼しますから。あの、それでどうです。お仕事は進んでいますか?」

「ええ、毎晩遅くまでやっていますからね。あと十着とちょっとですよ」

「そうですか」

 トノサマバッタは、にっこりしました。

「そうですか、もうすぐですね」

「ええ、もうすくですね」

 村長さんの笑顔を見て、ケムシさんはやさしくいいました。

「それでは失礼します。クモさんによろしくお伝え下さい。」

「そうですか、それじゃあ、おやすみなさい」

 トノサマバッタは、またにっこりしました。

「神さまにみえますよ。 クモさんが」             

 そういってトノサマバッタは、木枯しの中を肩をすくめながら帰って行きました。

 静かな夜でした。

 家の中からはクモさんが作る木の葉の音が聞こえてくるだけでした。

 それからもクモさんの仕事は続きました。

 クモさんひとりが、みんなの運命を変えることができるのでした。

 クモさんはもう夜もほとんど眠らず、食事もケムシさんが無理に食べさせなければ、 仕事ばかりしておりました。

 いよいよ四十着をすきると、枯れ葉は固くなってしまっていて、クモさんの仕事ははかどらなくなりました。

 けれどもクモさんは、手に血をにじませながら蓑を作り続けました。

「あと少し」

 クモさんは笑いました。

 四十六着目がやっとできた夜遅く、村に初めての雪が降りました。

 仕事に夢中だったクモさんもケムシさんも、雪には気がつきませんでした。

 ただ、今夜はとても寒いと思っただけでした。

 翌朝、いよいよ四十七着目を作りだしたクモさんの背中を見ていたケムシさんは、これで最後だとなんとなく安心して、疲れた頭をふって外に出てびっくりしました。

 

 いつもの年よりも早い初雪が、村に積っていました。

 

 悪い夢でもみているような気になったケムシさんは、おおいそぎでバッタ君の家へ行きました。

 それから村長の家へ、コオロギ君達、みんなの家へ。

 みんなは、雪にたえられるほど、強くはありませんでした。

 ケムシさんは、目の前がまっ暗になって、消えてなくなりそうな姿で家に帰りつきました。

 家の中では、クモさんが、何も知らずに一所懸命最後の蓑を作っています。

 クモさんは歌うようにいっています。

「あとひとつ、あとひとつ」

 ケムシさんは、戸を開けたままクモさんの背中をみつめています。

「クモさん。」

「ん? なんだい。ケムシさん」

  クモさんは、うしろをふりむきもしません。

「もういいんだよ。クモさん、もうオシマイなんだ」

  ケムシさんの言葉は、最後は声にはなりませんでした。

「なんだって」                              

 クモさんは、ふりかえりました。

 その時、クモさんは、外の白いべールに気づきました。

「ケムシさん」

「クモさん、もういいんだよ。終ったんだ。なにもかも終ったんだ」

 ケムシさんは、目を閉じたまま、くりかえしました。

「そんな。これで最後だっていうのに。そんな」

 クモさんは、くらくらしながら首を振りました。

 そして最後のミノに顔をうずめました。

 クモさんの瞳には、みんなの顔が閉じこもっていました。

 一所懸命生きて、その証しのために一所懸命歌ったあの晩の顔が。

 クモさんの肩が震え出しました。

 ケムシさんは、そっと戸を閉めした。

 外では降り止んでいた雪がしきりに降り始めておりました。

 

 それから何日もたたないうちに、クモさんはこの世を去りました。

 無理を重ねていたクモさんも、悲しみにたえるほど強くはなかったのでした。