咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

神さまになったクモ 6

その年の冬はとても厳しいものでしたが、それでも春はやって来ました。

バッタ君達が夢にみていたような、素敵な春でした。

 

 春がすぎて、ひまわりの花がまっしぐらに太陽をめざすようになった頃、

バッタ君達の子供が生まれました。

コスモスの花が、 はにかんだような姿を見せる頃、子供達が遊んでいる場所に、

一匹の針だらけの虫がたくさんの木の葉の山を引きずってやってきました。

子供達は、ケムシのおじいさんを見るのは初めてでしたが、

ケムシさんはとてもやさしい目をしていたので、

逃げ出したりせずに、そのままいました。

毛虫さんは、木の葉の山を引っぱっていた縄をはなすと、

腰をのばして、みんなの顔を見回わしました。

「こんにちは。坊やたち」

「こんにちは。」

 最初にあいさつができたのは、トノサマバッタ君でした。

 それからバッタ君もコオロギ君も みんな、次々にあいさつができました。

「みんな、いい子だねえ。」

 ケムシさんは、にこにこしながらいいました。

「みんなのために、今日はいいものを持って来たんだよ。」

「いいものって、それのこと?」

バッタ君がたずねました。

ケムシさんは、バッタ君を見て目を細めました。

「これはとてもいいものだよ。これはね。みんなが春を見るためのものだよ。」

みんなは、なんだかよくわかりません。

「みんなが春を見るためのね」

「おじいさん、春ってなあに?」

トノサマバッタ君がたずねます。

「春かい?     春はねえ とても素敵なものだよ。とてもやさしくてね」

「ふうん」

 みんな、わかったような、わからないような不思議な気持ちでした。

「おじいさん。それじゃあ、それをぽくらにくれるの?」

 バッタ君は首をかしげながらききました。

「ああ、これはねえ。」

 ケムシのおじいさんは、クモさんのことを話そうとしました。

 けれども、クモさんのことを思い出して、みんなのことを思い出すと、

 胸がいっぱいになって何もいえません。

「これはねえ、神さまが下さったものだよ。そう、神さまがね。みんなに、春が見れる 

   ように、ってね」

  ケムシさんは、それだけいい終ると、くるりとふりかえって、もと来た方へ歩いて行きました。

 みんなは、なにがなんだかわからないまま、ケムシさんの後姿を見送っていました。

 やがてケムシさんが見えなくなってしまうと、木の葉の山のまわりで、ガヤガヤとさわぎ始めました。

「やあ、元気だね」

 みんなのところへやって来たのは、ミノムシ君でした。

「あ、ミノムシさん、こんにちは」

 みんなは元気良くミノムシ君にあいさつしました。

「どうしたんだい?これは」

 ミノムシ君に、トノサマバッタ君がケムシのおじいさんのことを説明しました。。

「そうか、これか、これか。これがクモさんが作った、あれか」

 ミノムシ君は、話しを聞いてしきりにうなずきました。

  みんなはミノムシ君のところに集まって来ました。

「みんなは知らないけれどね。これは 『ミノ』 といってね。 ほら、私のものと同じだろう? 」

 みんなは、ミノムシさんをみつめました。

 それからミノムシ君は、今までのことを話しました

「神さまみたいな方だったよ」

 ミノムシ君は、そういって話しを終えて目をふせて、ため息をつきました。

 みんなは 黙って聞いていました。

 コスモスの花が、風にゆれていました。