「みなさん」
飼育係さんがそういったとき、マイクがキイ~ンといいました。
「私はバクのことを調べに行ってまいりました。とても長く辛い旅でした」
ここで飼育係さんは大きなため息をひとつつきました。
「私はこの眼でバクを見てきました」
広場に集まったみんなは、シーンと静まりかえりました。
「結論をいいます」
飼育係さんは、静まりかえって飼育係さんの言葉を待つみんなに報告します。
「バクは怪物などではなく、おとなしい普通の動物でした」
みんなのなかからざわめきがおこり、広場がざわざわとしているなかで、飼育係さんは声を張ります。 「しかし、バクは夢を食べます」
ざわめきは驚きから恐怖にかわりはじめていました。
飼育係さんが声を張りました。
「バクが食べるのは、怖い夢や悲しい夢だけなのです」 「どういうことだ!!」
みんなのなかから説明を求める声が上がります。 「バクは夢を食べます。バクは夢を選んで食べるのです」 「選ぶ?」 「ええ、バクは、怖い夢や悲しい夢だけを選んで食べるのです」 「なんだと」 「だから、バクがこの街に来たら、みんなは楽しい夢や嬉しい夢ばかりをみるようになるのです」
飼育係さんはとても早口で一息にいいました。
すると、みんなの中から拍手が起こりました。
みんなはにこにこしておりました。
市長さんも園長さんも笑っていました。
こうして街はまた、もうすぐやってくるバクの話でもちきりになりました。
そして、とうとうバクがやってきました。
動物園の一番真ん中の日当たりのオリがバクのお家でした。
街はお祭りで朝からパレードがありました。
バクをひとめ見ようと、街中の人たちが動物園に集まりました。
ゾウやシマウマもバクのオリをみつめておりました。
やがて、おめかしした飼育係さんが現れて、オリにかかったきれいな幕を落すと、中には小さなバクが、ひとりいました。
みんなはほーっとため息をつきながら、バクをみつめました。
たくさんの人や動物たちにみつめられて、バクははにかんだのか、うつむいてしまいました。
飼育係さんはとてもあわてました。
そしてみんなにいいました。
「あまりみつめないでください」
飼育係さんは、少し考えていいました。 「バクは夢を食べるくらいだから、とてもデリケートなのです」
みんなはそれをきいてなるほどと思いました。
それで、バクをチラチラと見ては、帰って行きました。
その夜、バクは初めての場所でなかなか眠れませんでした。