咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

夢の街の話 2

「みなさん」                                        

 飼育係さんがそういったとき、マイクがキイ~ンといいました。

「私はバクのことを調べに行ってまいりました。とても長く辛い旅でした」                     

  ここで飼育係さんは大きなため息をひとつつきました。          

「私はこの眼でバクを見てきました」                                     

 広場に集まったみんなは、シーンと静まりかえりました。          

「結論をいいます」                                           

 飼育係さんは、静まりかえって飼育係さんの言葉を待つみんなに報告します。  

「バクは怪物などではなく、おとなしい普通の動物でした」                       

 みんなのなかからざわめきがおこり、広場がざわざわとしているなかで、飼育係さんは声を張ります。                                        「しかし、バクは夢を食べます」                                      

 ざわめきは驚きから恐怖にかわりはじめていました。

 飼育係さんが声を張りました。

「バクが食べるのは、怖い夢や悲しい夢だけなのです」                   「どういうことだ!!」                            

 みんなのなかから説明を求める声が上がります。                「バクは夢を食べます。バクは夢を選んで食べるのです」                       「選ぶ?」                                      「ええ、バクは、怖い夢や悲しい夢だけを選んで食べるのです」                      「なんだと」                                      「だから、バクがこの街に来たら、みんなは楽しい夢や嬉しい夢ばかりをみるようになるのです」                                          

 飼育係さんはとても早口で一息にいいました。

 すると、みんなの中から拍手が起こりました。

 みんなはにこにこしておりました。

 市長さんも園長さんも笑っていました。

 こうして街はまた、もうすぐやってくるバクの話でもちきりになりました。

 そして、とうとうバクがやってきました。

 動物園の一番真ん中の日当たりのオリがバクのお家でした。

 街はお祭りで朝からパレードがありました。

 バクをひとめ見ようと、街中の人たちが動物園に集まりました。

 ゾウやシマウマもバクのオリをみつめておりました。

 やがて、おめかしした飼育係さんが現れて、オリにかかったきれいな幕を落すと、中には小さなバクが、ひとりいました。                            

 みんなはほーっとため息をつきながら、バクをみつめました。

 たくさんの人や動物たちにみつめられて、バクははにかんだのか、うつむいてしまいました。

 飼育係さんはとてもあわてました。

 そしてみんなにいいました。

「あまりみつめないでください」                            

 飼育係さんは、少し考えていいました。                               「バクは夢を食べるくらいだから、とてもデリケートなのです」

 みんなはそれをきいてなるほどと思いました。

 それで、バクをチラチラと見ては、帰って行きました。

 その夜、バクは初めての場所でなかなか眠れませんでした。