その翌朝、一人の人が目が覚めた時にヘンな気がしました。
いつもと同じような朝でしたが、ちょっとだけ違う感じがしました。
そんな「ヘンな感じをする」という人が何人もでてきました。
「なんか、ヘンなんですよ」
「そう、なにか、ヘンなんです」
「どういえばいいのか」
「視線を感じる、というのか」
「そう、誰かに見られているような」
「ええ、わたしも」
「眠っている時に」
みんなは、いろいろと考えるうちに、バクのことに思いあたりました。
「バクが見ている、のかも」
「怖い夢をみないように」
「そう、怖い夢を食べちゃおうとして」
みんなは夜になると落ち着かなくなりました。
怖い夢をバクが食べてくれるのは良いのですが、バクが食べる怖い夢が、どんな夢なのだかを知りたくなってきました。
そうしているうちに、こんなことをいう人が出てきました。
「私は、とても悲しい夢をみました」
みんなはびっくりしてしまいました。
バクは悲しい夢も食べてしまうはずです。
「亡くなった娘の夢です。でも久しぶりに娘と会えました」
悲しい夢を見たという人は、微笑みました。
みんなはバクのことがわからなくなりました。
バクは本当に怖い夢や悲しい夢を食べるのか。
そして、夢のこともわからなくなりました。
何が怖い夢で、何が悲しい夢なのか、わからなくなりました。
みんなはいろいろと考えましたが、みんなで話し合ったりはしないようにしました。
あまり思い詰めて夢にでもみたら大変ですから。
みんなはバクに心の中をのぞかれているような気がしました。
みんなはあまりバクのことを考えないようにしました。
小さなバクはひとりぽっちでくらしていました。
飼育係さんも動物たちも、バクに心をのぞかれないように、バクとは目を併せないようにしていました。
それでも飼育係さんは、やっぱりバクのことを放っておけませんでした。
飼育係さんがバクを連れてくるためにいろいろと頑張ったので、バクのことを好きになっておりました。
それで飼育係さんは、さらに詳しくバクのことを調べました。
そして、ついに大変なことを見つけてしまいました。
「園長さん、大変です」
飼育係さんは園長室に駆け込みました。
園長さんは夢をみないようにと、夜によく眠っていないので、居眠りをしていました。
「どうしたんだね、きみ、大声で」
園長さんは、居眠りしていたことをごまかしていいました。
「バクが食べるのは、夜に見る夢ではないかもしれません」
「なんだと」