咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

夢の街の話 3

その翌朝、一人の人が目が覚めた時にヘンな気がしました。

いつもと同じような朝でしたが、ちょっとだけ違う感じがしました。

そんな「ヘンな感じをする」という人が何人もでてきました。

「なんか、ヘンなんですよ」

「そう、なにか、ヘンなんです」    

「どういえばいいのか」   

「視線を感じる、というのか」

「そう、誰かに見られているような」

「ええ、わたしも」     

「眠っている時に」

 みんなは、いろいろと考えるうちに、バクのことに思いあたりました。

「バクが見ている、のかも」

「怖い夢をみないように」

「そう、怖い夢を食べちゃおうとして」             

 みんなは夜になると落ち着かなくなりました。

怖い夢をバクが食べてくれるのは良いのですが、バクが食べる怖い夢が、どんな夢なのだかを知りたくなってきました。

 そうしているうちに、こんなことをいう人が出てきました。

「私は、とても悲しい夢をみました」

 みんなはびっくりしてしまいました。

 バクは悲しい夢も食べてしまうはずです。 

「亡くなった娘の夢です。でも久しぶりに娘と会えました」                       

 悲しい夢を見たという人は、微笑みました。

 みんなはバクのことがわからなくなりました。                        

 バクは本当に怖い夢や悲しい夢を食べるのか。

 そして、夢のこともわからなくなりました。

 何が怖い夢で、何が悲しい夢なのか、わからなくなりました。

 みんなはいろいろと考えましたが、みんなで話し合ったりはしないようにしました。

 あまり思い詰めて夢にでもみたら大変ですから。

 みんなはバクに心の中をのぞかれているような気がしました。

 みんなはあまりバクのことを考えないようにしました。

 小さなバクはひとりぽっちでくらしていました。

 飼育係さんも動物たちも、バクに心をのぞかれないように、バクとは目を併せないようにしていました。

 それでも飼育係さんは、やっぱりバクのことを放っておけませんでした。

 飼育係さんがバクを連れてくるためにいろいろと頑張ったので、バクのことを好きになっておりました。

 それで飼育係さんは、さらに詳しくバクのことを調べました。

 そして、ついに大変なことを見つけてしまいました。

「園長さん、大変です」

 飼育係さんは園長室に駆け込みました。

 園長さんは夢をみないようにと、夜によく眠っていないので、居眠りをしていました。

「どうしたんだね、きみ、大声で」

 園長さんは、居眠りしていたことをごまかしていいました。

「バクが食べるのは、夜に見る夢ではないかもしれません」

「なんだと」