咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

エピソード3. 悲鳴

がんセンターの外来待合いでのことだった。

 

老夫婦が罵り合っていた。

罵り合うといっても、おじいさんがおばあさんを叱りつけている。

おばあさんは使い慣れない杖が上手く使えない。

それにおじいさんが文句を言う。

 

 そのおじいさんの罵声が、私には、まるで悲鳴のように聞こえた。

 

おじいさんは気づいているのだ。

おばあさんを失ってしまうであろうことを。

 

おじいさんは気づいてしまったのだ。

おじいさんが、どれだけおばあさんを頼りにしているのか

おじいさんが、どれだけおばあさんを信じているのか

 

どれだけ、おばあさんを愛しているのか、を

 

だから、おじいさんは悲鳴をあげているのだった

 

しかし、がんになって混乱している二人は罵り合ってしまう

 

自分ががんになって混乱していること 

大切な人ががんになって混乱していること

 

混乱していることにすら、気づかないほどの混乱に陥る

 

それが、がんになるということなのだ