咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

エピソード4. 廉恥

 私が大切にしてきたものに「廉恥心」というものがある。                               恥を知る、ということだ。                                             例えば、                                              「泣かない」                                              「怖がらない」                                             「期待をうらぎらない」                                          「あきらめない」                                            「弱音をはかない」                                         「前を向く」                                             「みっともないことをしない」                                それらの言葉を糧として、私は絶望を乗り越えてきた。                            見方によっては、ただの「見栄」かもしれない。「やせ我慢」かもしれない。                                       それでも私は自分の心を「廉恥心」で律することで、ここまで生きてきた。                      そうやって、家族を守ってきたし友人と付き合ってきた。

 

しかし、がんになって事情が変わった。                                 私の身体は自分でわかるほどに衰弱してしまった。                              私にはもう、「恥を知る」余裕はないのではないだろうか?                                私にはもう、大切な人を守る力は残されていないのではないか?

 

そう思ったとたんに、「廉恥心」が重荷になりはじめてきた。

 

やがて、その「廉恥心」が、私を苦しめはじめた。

今までの人生において、「私を支えてくれた私」が、「私が頼りにしてきた私」が、「病気になってしまった私」を責立てる。

『全てはがんになった自分が悪いのだ』

 私は、がんになった自分を恥じ、自分を責めた。

 

 しかも、私のがんは治らない。

 

「治りますように」と祈ってくれる人の期待にも応えられない。

 私の大切な人の祈りは通じない。                                            

 祈りは報われることはない。

 私は私がもっとも恥じるような人間になってしまった、と思っていた。

  

  私は私自身に絶望していた

 

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