咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

エピソード9. 邂逅

思いがけず巡り合うことを「邂逅」という。

 

私は、死の淵を覗きこんでいた時に、

その≪先生≫と邂逅したのだ

それは2015年の冬のことだった。

 

退院した私は、がんの新薬開発の為の治験者となっていた。

標準治療は、全て終わったのだ。

せめて、治験者=モルモットとなることで世の役にたちたかった。

未来とつながりたかった。

二週間に一度の点滴と検査。

CT検査のたびに、未だに身体の中に≪がん≫がいることが確認できる

退院後には、入院時に感じなかった≪痛み≫を感じていた

 

私はそんな自分に絶望していた

 

そんな私に主治医は≪精神腫瘍科≫の受診を勧めてくれた

 

私は精神腫瘍科に行った

 

そこで、≪先生≫と巡り合った。

 

他のがん患者と同じように、私もがんになってしまった自分を責めていた

 

そんな私に≪先生≫はいう。

 

「車を運転していたとします」

 

 ふだん≪先生≫は、話を聞くだけだ。しかし、時に、≪先生≫は語る

 

「法定速度を守って周囲の車の流れに合せて運転していた。

 そこに、人が飛び込んできてぶつかった。

 これはとても残念なことであるけれど、ただの『事故』です。

 運転手にはなんの過失もないのですからね」

 「一方、もしも、運転手にスピード違反や前方不注意などの過失があったら、

 それは『事件』です」

 「そして、殺意を持って人を車ではねたら、それは、『犯罪』でしょう」

 

「病気になったのは、あなたには何の過失もないのです。

 あなたは、病気になりたくてなったわけではない。

 病気になったのはとても残念なことではあるけれども、

    あなたには何の過失もない。

 だから、ご自分を責める必要はないのです」

 

 理路整然としたその話には、とても説得力があった。

  

 精神腫瘍科。

 腫瘍の精神科。つまり、がん患者の精神科

 

 死の淵を覗いてばかりいた私は、顔を上げた

 

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人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話