咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

エピソード12. 物語

「今日もがんセンターには沢山のひとが来ていますね。

 ほとんどが無名の人だ。そして、みんなが、命懸けの戦いを戦っています」

 清水先生はうなずきながら聞いてくれる。

「無名のおっさんやおばさんが、想像を絶する痛みに耐えながら戦う、となると、それってちょっとした『ヒーローの物語』になりませんか?」

「どんな人にも物語があります」

 清水先生がいう。

「長くても短くても、その人だけの「物語」ですからね」

「がんに身体は負けても、心はがんに負けない物語、というのはどうですか?」

 私がいう。

「まるでヒーローじゃないですか」

 清水先生が笑う

「心が折られそうになった時に、その傍らには、清水先生が寄り添っている。

 ヒーローが立ち上がるその為に清水先生がいる、っていう物語です」

「カッコいいですね」

 清水先生が笑う。清水先生が笑うと私はとても嬉しくなる。

「まあ、カッコいいのはいつも患者さんです」

 

 私の人生にはたくさんの物語がある。

 だから、がんは、私の数あるエピソードのうちのひとつにしかすぎないのだ

 私はそう思えるようになっていた

 清水先生のおかげで、私は絶望の淵を覗きこむことを止めた

 見上げた空には星が見えた

 

 そして私は続けた

 

「先生、一緒に本を作りませんか?」

 

↓10月19日発売

人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話