咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

エピソード.18 翁面

「基本的に私と清水先生の≪対話≫を、本の形で再現できれば良いのではないかと思っています」

 私は団長に説明した

「私が絶望する。その絶望の中から≪死生観≫を見出すまでの道のりを、≪翁≫への道のりを、清水先生との対話で描く」

≪悟り≫ではなかった。≪覚悟≫してはいなかった。

 

 あきらめようとしていた。 

 

 ≪翁≫とは、能面のひとつだ。 

 古来の日本の老人の顔のイメージだ

 ≪翁≫は、微笑ともいえないほどのおだやかな笑みをたたえている

━笑って死ぬとい時の笑顔とは、こういう笑顔のことなのではないのか

 そう思った時に 自分の≪死に顔≫を思いついた

━≪この世≫から さらりさらさら と≪あの世≫に逝けたらよい

 そう思うようになっていた。

 

 2016年の8月の私は、≪おだやかな死を迎えること≫が、自分にとって、

 いや、不治の病を持つ者にとって、最良のことであると信じていた。

  

 治らない病気と闘うような無駄なことはしない。病気とは共存する。

 病気と闘うはずだったエネルギーを使って、残された時をおだやかなものにする

 

 おだやかな時が欲しかった

 

 痛くない時が欲しかった

 

↓10月19日発売

人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話