咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

エピソード.19 僥倖

    そう、とにかく闘わない。おだやかに受け容れる。

 死を受け入れる

 

 私がそんな≪死生観≫をもつようになったのには、

 間違いなく学生時代からの親友の影響からだった。

 彼は能楽師だ。彼の父も能楽師であったし、彼の息子も能楽師だ。

 重要無形文化財の親友などというものは、めったにいるものではない

 私はそんな≪僥倖≫に恵まれた一人なのだ

 そう、私の≪僥倖≫とは、そんな親友から≪能楽≫という世界文化遺産にもなる

 唯一無比の芸術を学ぶことができるということだ

 

 私は清水先生に≪能楽≫を伝えようとしたことがあった。

お能ではね、清水先生がワキ方で、私がシテ方お能ではね、ワキ方シテ方から「物語」を聞き出すんです。シテ方というのは、その多くは思いを残して死んだ幽霊です。その霊が「自分だけの物語」を語ることで鎮魂されるわけなんです」

 

 そんな話をしているうちに、私は≪翁≫にたどり着いたというわけだった

 

「精神腫瘍学という新しい学問と、能楽という古典芸術を、≪死生観≫という視座からひとつの本にまとめることができたら、すごい本になるかもしれませんね」

 

2016年の8月、私たち夫婦と団長は作家の事務所を訪れた

本を作る相談をするために 

 

↓10月19日発売

人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話