咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

エピソード21. 逃切

「何故、生き延びようと思わないのですか?」

 ≪作家≫はまっすぐに尋ねる

 

 5年生存率5~20%

 身体の芯からの間欠泉のような痛み

 痛みを麻薬で抑え、睡眠薬で眠る毎日 

 それでも人は生きたいと思うものなのか?

 

 「思います。生きて欲しいとも、思います」

  ≪作家≫はまっすぐにいう。

 

 それならば、私はウソをついていることになる

 

 私は生き延びようと思わなかった

 

 理由は簡単だった

 

 私は、「人生を逃げ切ろう」と思っていた

 私が死ねば、マンションのローンは完済する

 私が死ねば、家族のお荷物にはならない

 私は死ぬことで人生を逃げ切ることを願うようになっていた

  

 治らない病と痛む身体、稼ぐ力もなく家族の負担になる父親

 そんな父親にになることが耐えられそうになかったのだ

 

 ≪がんとローンを抱えたお父さん≫が考えることなど、同じなのかも知れない

 

「逃げ切れなかったらどうしょう」
 私は、もし職を逐われたら、稼げなくなったら、どうしよう

 ローンを抱えた父親として、家族に養ってもらうのか。

 そんな父親になりたくない

 

 この一年、私はそんな思いで暮らしていたのだ

 

 ただ、≪作家≫に問われるまでは 

 私は、自分が≪逃げ切ろう≫としていることに、気づいていなかった

 

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人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話