咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

エピソード26. 対面

その会議は、小さなホテルで行われた

会議の召集者は、作家・稲垣麻由美

出席者は、清水研・金井雄資・応援団団長、そして私たち夫婦

 

清水研さんと金井雄資さんはこの時が初対面だった

会議の前には、清水研さんが初めて能楽堂へ行き、お能のお仕舞を観る

というイベントがセットされていた

 (その後、多忙な二人は2017年10月現在、未だに再会を果たしていない)

 

能楽堂近くのホテルでの≪会議室≫を手配してくれたのは団長だった

彼は前日にホテルに訪れて打ち合わせまで行ってくれていた

団長というのは、そういう男なのだ

 

会議の目的は、全員が一同に会することだけでなく、

本の方向性を定めることも目的にしていた

 作家から一冊の本にまとめることの難しさの説明を受ける

「目的は、≪がん患者やその家族に精神腫瘍科の存在を知らしめること≫、ですよね」

 全員がうなずく

 そのために、商品化しやすく、≪国立がんセンター≫や≪重要無形文化財≫などのブランドを加えたわけだ

 

「企画がまとまりません。あまりに内容が濃すぎます」

 作家が苦笑まじりにいった

「そして、希望がありません」

 これは、私が宿題を果たしていないことを意味していた

 

 私は、自分がよく生かされた、ということは、深く感じていた

 つまり、がんになって不幸ではなかった

 私には、それをうまく伝える言葉がなかった

  

 しかし、作家は何かをつかんだようだった

 

「≪死生観≫を持つことで、おだやかに逝くことができる。

 そんな道程を本にしたいと、当初、うかがいました」

 

 がんはきっかけにすぎない

 がんはエピソードのひとつにすぎない

 私たちは、≪がんの本≫をつくるのではない

 

「私は取材する中で

『がんをきっかけにして、

 自分が抱える未解決の問題に気づき、

 人生の扉を開こうとする人たちの≪物語≫を知りました」

 

2016年は、こうして暮れていった 

 

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人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話