咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

リブート20. 解答‐4

「『人間は幸せになるために生まれてくる』

という宮澤賢治の「教え」は、私が生きる指針となりました。

ですから、私には「自分探し」なるものは必要ではありませんでした」

 

 清水先生は黙って私に話を促します。

 

「そんな私は大学生になって、久しぶりに

『人間はなんのために生まれてくるのか?』という問いに出会いました」

 

 清水先生の片方の眉が少し上がります。

 

司馬遼太郎の『竜馬がゆく』の中で、坂本竜馬が後輩志士に尋ねるくだりがあるのです。

『人間はなんのために生まれてくるかを知っちょるか?』と。

竜馬の答えは『人が世に生を得るは事を成す為』。

人は自分の志を成し遂げる為に生まれてくる。

たとえ成し遂げることができなくとも、死ぬまで志のほうを向いて生きていたい。というかっこいいものでした」

 

 清水先生が微笑みます。

 

「そうなんです。かっこいいんです。

 私は思いました。

 もしも私(わたくし)の幸せが公(おおやけ)の幸せにつながるのならば、

私は宮澤賢治坂本竜馬のそれぞれの教えを、一体化できるのではないか、と」

 

 清水先生は、私が説明のためにノートに書く『私』と『公』の文字をのぞきこみます。

 

「しかし、それからの私は大きな思い違いをしてしまうのです。

 何事かを成すには、何者かにならねばならない。

 という思い違いをしてしまうのです」

 

『何者』という言葉に、 清水先生の瞳の光が増した。

 

「はい。この『何者』とい言葉が、 病気になった時に私を大変苦しめることになりました」

 

 清水先生がうなづく。

 

「自分は、何者にも成れないままに死んでしまうことが、無念でした。そして、ほとんどの人が、何者にもならずにこの世を去るという、あたりまえのことに直面し、とても残念に思いました」

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