咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

リブート21. 解答-5

「『何者』かになれない。その苦しみはどうなりましたか? 」

 清水先生が笑顔で私に問いかけてきます。

 

 私はがんになって初めて、たくさんの『何者』でもない人たちが、壮絶な闘病の日々を送っていることを知りました。

 さまざまなものを失いながらも、生きることを選ぶ人たちの姿は、がんセンターでは普通に目にすることになります。

 そして、近い未来に命を失うことを受け容れる姿をも、目にしてしまうことがあります。

 

 その勇気ある人達は、特別な人、つまり『何者』でもありませんでした。

 普通の人たちが勇気をもって、がんと闘っているのでした。

 

「はい。『幸せになること』が目的で生きていたはずが、『何者かになる』ことが目的になっていました」

 そんな私が、『何者にもなれないままに死を受け入れるという境地』に至るまで、私に併走してくれた清水先生が笑顔をたたえている。

 

「『人生でほんとうに大切なこと』の本の中に、登場人物として描かれることで、私は『何者』かになったのかもしれません。

 あの本が出版されてほんとうにありがたいです」

 

 本のタイトルに名前を提供してくれた清水研先生が小さくうなずきます。

 

「あの本で精神腫瘍医の存在を知る人が増えたり、私が抗がん剤の新薬開発の治験者になれたことで、私は世の中のお役に立てたとしたら、『何者』かになったみたいで、ありがたいです。」

  

 清水先生の眼が細くなります。

 

「でも、ほんとうは『何者』かになる必要は無かったので

す。私は気づきました。私にそれを教えてくれたのは、サンテグジュペリの『星の王子さま』です」

 

 

 

 

 

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