咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

はざまのカミサマ13 胡蝶

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「胡蝶よ、お前の物語を聞かせておくれ」

三狐神の背後で女の声がしました。

三狐神が振り向いたそこには、黒い狐面をつけた女人が膝をついていました。

はざまのカミサマを東は青狐、南は赤狐、西は白狐と三方からお守りする三狐神。

はざまのカミサマは三狐神の北の方におわします。

そのはざまのカミサマに、直にお仕えするのがこの黒い狐面です。

はざまのカミサマの最後の守りが、この黒い狐面なのです。

青、赤、白の三狐神の全ての妖力を束ねたとしても、

黒い狐面の力には遠く届かない。

少なくとも三狐神は、そう、信じています。

膝をついた黒狐面の前には、二重のらせんのような半透明の帯がゆらゆらと揺れています。

胡蝶の精霊です。

胡蝶の精霊が、黒揚羽蝶の姿を捨てて、はざまのカミサマの世に帰ってきたのでした。

胡蝶の精霊は、ゆらゆら揺れる二重らせん状の光の帯のように見えます。

「我のイノチが生きた姿は、蝶ではなく、蛾でした」

しばらく沈黙していた胡蝶の精霊が口を開きました。

蝶と蛾は、このクニでは違う生き物のように分けます。

しかし、蝶も蛾も同じ名前で呼ぶクニもあるほどに、ふたつの生き物の境目はあいまいでした。

「私はかつては「冬蛾」と呼ばれる生き物でした」