咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

はざまのカミサマ外伝.田村19

田村麻呂は、蝦夷の酋長アテルイとモレを、自分の屋敷に軟禁していました。大和朝廷にとって、二人は蝦夷の降伏の証しでしたが、いわゆる「和睦の為の人質」ですから拘束することはできません。

蝦夷の酋長に対して、征夷大将軍坂上田村麻呂は頭を下げました。

「我らは、やはり斬首ですかね」

モレがにこにこと話します。

「大和にとって、上策、中策、下策となりますな。我らをもてなし、蝦夷自治を任せるのは上策、我らを都に留めて蝦夷を従えようとするのは中策。そして、我らを斬首して蝦夷を滅ぼそうとするのは下策です」

田村麻呂も膝をうちます。

「私もそう思うのです。なにより、貴殿らを殺せば悪霊になるはず。朝廷の者たちは、その悪霊を恐れると思いました。だからこそ、貴殿らの命を保証すると申したのです」

田村麻呂は、顔を伏せます。

「しかし、蝦夷は人ではなく、獣同然。故に殺しても悪霊にはならない、どのこと」

モレは笑顔のままで田村麻呂に尋ねます。

「大和の信じる仏の教えでは、不殺。つまり殺してはならないという戒があるはずです。それ故に、我らのように肉食を避ける。蝦夷が獣同然でも殺してはならないはず」

田村麻呂は、赤面しますが無言です。

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