咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

遠くの赤い風船.3

「どうして誰もぼくを見てくれないのかな?」

 赤い風船には不思議に思えました。

 こちらからは、こんなに見ているのに、あちらからは、まったく見ない。

 赤い風船にとって、それは大きな「なぞ」でした。

 そうそう、赤い風船には、他にも「なぞ」がありました。

 それは、「団長の窓のなぞ」とも呼ばれていました。

 もちろんそう呼んでいたのは赤い風船だけでしたが。

 「団長の窓のなぞ」というのは、団長がブランコ乗りの少年に何度もいっていた言葉です。

 

「良いか。日が暮れたら急いでテントの中に入るのだ。窓を見てはいけない。灯のついた窓を見てはいけない。遠くからでも見てはいけない。良いか。わかったな」

 

 今日も西のハゲ山に日が沈みます。

 街に灯りが灯り始めます。

 赤い風船は、ぼんやりと街の灯りをながめていました。

 やがて、吹いてきた風にたずねました。

 

「ねえ。あの窓の向こうには何があるの?」

 

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「神さまになったくも」著:千賀泰幸、画:金井雄資