「どうして誰もぼくを見てくれないのかな?」
赤い風船には不思議に思えました。
こちらからは、こんなに見ているのに、あちらからは、まったく見ない。
赤い風船にとって、それは大きな「なぞ」でした。
そうそう、赤い風船には、他にも「なぞ」がありました。
それは、「団長の窓のなぞ」とも呼ばれていました。
もちろんそう呼んでいたのは赤い風船だけでしたが。
「団長の窓のなぞ」というのは、団長がブランコ乗りの少年に何度もいっていた言葉です。
「良いか。日が暮れたら急いでテントの中に入るのだ。窓を見てはいけない。灯のついた窓を見てはいけない。遠くからでも見てはいけない。良いか。わかったな」
今日も西のハゲ山に日が沈みます。
街に灯りが灯り始めます。
赤い風船は、ぼんやりと街の灯りをながめていました。
やがて、吹いてきた風にたずねました。
「ねえ。あの窓の向こうには何があるの?」