咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

遠くの赤い風船.4

 風はめんどくさそうに、ちょっとつむじを巻きながら答えました.

 

「窓の向こう?何もないよ.いつも街にいるみんながいるだけさ。子どもと大人と老人がいるだけだよ」

 

 風はもうひとつつむじを巻くと、どこかにいってしまいました。

 風の後ろ姿を見送って、赤い風船はため息をひとつ落として、また、窓の灯りをながめます。

 

 いつものみんなが居るだけだというあの窓の灯りを、団長さんはなぜ「見てはいけない」と厳しくいうのでしょうか。

 

赤い風船は、カラスのおじいさんにもたずねてみました。

このおじいさんは、街のいろいろな所を飛び回っていて、物知りで有名なカラスでした。

赤い風船は、団長の話もオマケとして付け加えました。

 

「さあて、窓の向こうのなぞはワシにもわからんなあ」

 カラスは赤い風船の周りをくるりと飛んでいいます。

「それより、お前のことを見ている子どもがいたぞ」

「ぼくを?」

 赤い風船はびっくりしました。

「ああ。お前を」

「ぼくを?」

「ああ、あの白いビルだ」

「なぜだろう?」

 

赤い風船は、もう、びっくりしてしまっていました。

 

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著:千賀泰幸、画:金井雄資