咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

遠くの赤い風船.5

「ああ、あれは病院なんだ.それでね.ほら、あの窓は北向きにある。だから、あの窓からがお日様が見えないんだ。あの窓ぬ向こうには小さな女の子が入院している」

「入院?」

「それで、その子はお前のことを『お日さまの赤ちゃん』と呼んでいる」

「お日さまの赤ちゃん?」

「色が白くてね。笑うと目がほそおくなるんだよ。いつもひとりで折り紙ばかりやっているよ」

 

 カラスは思い出し笑いのようにクスクス笑ました。

 

「でも、ぼくは『お日さまの赤ちゃん』なんかじゃないのにな」

 

 赤い風船は、なんだか自分がウソをついているような気持ちになりました。

 

「さあて、夕焼け小焼で日が暮れるよ。ワシは帰るからね」

 

 カラスのおじいさんは、また、赤い風船の周りをくるりと飛びました。

 

「ワシの経験では、いつでも見てくれる誰かがいることは、幸せなことだよ」

 

 カラスは西のハゲ山の方に飛んでいってしまいました。

 

 西のハゲ山は、秋の夕陽に暮れ染まっていました。

 

「はは。『お日さまの赤ちゃん』か」

 

 赤い風船は、くすぐったそうに小さく笑いました。

 

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