咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

はざまのカミサマ外伝. 西行17

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「はざまのカミサマ」が、この世に残そうとしたもの。

それは、この国土や気候、つまりこのクニの自然の生命。

生命の「美意識」だったのかも知れません。

那須与一は、騎馬のまま海に入ると、沖合の波間に揺れる平家の舟に掲げられた扇に、鏑矢を一閃。

与一の矢は流星のように閃いて、扇を貫き落とします。

那須与一の僅か二十年しかない人生の僅か一日、

いや、刹那の瞬間。

その瞬間は、源平合戦のあらゆる激闘よりも、広く長きにわたって語り継がれることになります。

そして、那須与一という坂東の豪族の十一男でしかない青年の名前を、このクニの人々の記憶の中に刻みつけたのです。

はざまのカミサマは、日本人の美意識をつくり、このクニの人々に教えました。

はざまのカミサマに、その「意志」があったのかどうかはわかりません。

わかりませんが、日本人の死生観を含む「美意識」には、このクニに特有のものがあることは、間違いありません。

なにしろ、天下布武を成し遂げた源頼朝よりも

平家の扇を射落とした那須与一のほうが、

人々にとっては「人気」があったのですから。

幸運な成功者よりも、悲運な敗者のほうが人気がある。

名を挙げ財を成した者よりも、名もない努力家の方が人気がある。

破滅の英雄は、過去にも沢山いました。

天照大神との戦いに敗れた素戔嗚。

国を譲らされた大国主命

父に捨てられて白鳥になった日本武尊

政争に敗れて太宰府に流された菅原道真

兄頼朝に殺された源九郎判官義経

このクニに住む人々は、何を美しいと思うのか。

このクニに住む人々は、敗者もまた美しいと思うのです。

そして、人々が西行法師に見た「美しさ」とは、「漂泊者」でした。