咲きも残らず散りもはじめず

タイトルは満開に咲く花を歌った古歌より

はざまのカミサマ.外伝.観世⒑

平家物語 犬王の巻

 

「これからお前は勝ち続けねばならぬ。さもなければ一座は消える」

 二条良基の言葉に、藤夜叉は喉を鳴らします。

 

当時、猿楽といえば、大和四座と近江六座が互いに人気を競っていました。

藤夜叉の父である観阿弥は、大和四座のうちの一つ結城座を率いていました。

観阿弥の一座が人気を誇っていたのは、

観阿弥がもともとは物真似や滑稽芸が中心であった猿楽に、

物語を音楽劇で演じる能や仕舞などを取り入れたことで、

猿楽から申楽と転じさせて、他の一座との「立ち合い能」に勝ち続けたからです。

 

当時は、芸能も優劣を競う「立ち合い能」で勝敗が定められた時代でした。

 

そして、観阿弥が息子である藤夜叉を将軍に「献上」したのは

「立ち合い能」での勝率を高めるための策でもありました。

 

この時代、「美しい敗北」などはありません。

敗北は消滅を意味するだけです。

生き残ることだけが美しく、生き残ることだけが正義である時代でした。

藤夜叉はそんな時代に、観阿弥の後継者、世阿弥となっていくのです。

 

観阿弥が犬王に敗れる日も遠くはあるまい」

二条良基は、大和四座の好敵手である近江六座のひとつ近江日吉座の猿楽師。

道阿弥こと犬王の名を上げました。