咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

2022-01-01から1年間の記事一覧

神様になったくも.1

冬の静かな夜にはこんな話しがあります。 ある所に虫の村がありました。人間の町があるのですから、虫の村もあります。 そして、そこに、クモの仕立屋さんがおりました。 この仕立屋は8本の手足を使い、上等の糸で仕事をするので、たいそうはんじょうしてい…

神様になったくも. 2

「どうしたんだい。中におはいりよ」 声をかけてくれるのは、クモさんといっしょに住んでいるケムシのおじいさんでした。クモさんは、ケムシさんの毛を針に使っていました。 「ああ」 クモさんは、ふりむいて暗い部屋に入りました。 冷たくなった秋風が、ク…

神様になったくも.3

翌日も、昨日と同じ、高い秋空の日でした。 クモさんもケムシさんも、何もなかったような顔をして黙っておりました。 クモさんは、朝早くから忙しそうに仕事をしていました。 誰でも、 悲しいことや、せつないことがあった時には、何かを一所懸命にやるもの…

神様になったくも.4

それからしばらくして、音楽会の日がみんなに伝えられました。 いつもの年よりも早い音楽会でした。 音楽会までの問、クモさんもケムシさんもいつもと同じ様に、つまりクモさんは一日に10回はお茶を飲んで、ケムシさんは一日中パイプをふかしてくらしてい…

神様になったくも.5

その翌日も素晴らしくいいお天気でした。 真赤に染った木の葉に柔らかな秋の陽がさしておりました。 「おはようございます」 ミノムシ君がにこにこしながらやって来ました。 昨晩帰りがおそかったので久しぶりに朝寝坊をしてしまったクモさんは、朝のお茶の…

神様になったくも.6

そしてそれからすぐに、お茶をぐいっと飲みほして、ちいさな野原のすみにあるバッタ君の家へ行きました。 バッタ君は、もうびっくりしてしまいました。 「冬がこせるのですか? ぼくが? ぼくが?」 バッタ君は、もうあきらめていたのでした。 そのための音…

神様になったくも.7

翌日、 がやがやという虫達の声で、二人は目をさましました。 まだお日様が登りきっていないような早い朝でした。 クモさんとケムシさんは何だろうと思って戸を聞けてみると、家の前にはコオロギ君やスズムシ君たちがいっぱい来ていました。 「どうしたんで…

神様になったくも.8

それからクモさんは、朝早くから夜遅くまで、ひたすらミノを作りました。 ケムシさんが用意してくれた食事やお茶も、そのまま冷たくなっていることがしばしばありました。 十着目までは、すぐできました。 二十着をすぎて二十八着目になると、それまで赤や黄…

神様になったくも.9

いつもの年よりも早い初雪が、村に積っていました。 悪い夢でもみているような気になったケムシさんは、おおいそぎでバッタ君の家へ行きました。 それから村長の家へ、コオロギ君達、みんなの家へ。 みんなは、雪にたえられるほど、強くはありませんでした。…

神様になったくも.10

その年の冬はとても厳しいものでしたが、それでも春はやって来ました。 バッタ君達が夢にみていたような、素敵な春でした。 春がすぎて、ひまわりの花がまっしぐらに太陽をめざすようになった頃、 バッタ君達の子供が生まれました。 コスモスの花が、 はにか…

神様になったくも.11

ケムシさんは、毎日毎日、遠くから聞こえてくる虫達の声に、 みんなのことを思い出して、 そして、クモさんのことを思い出してくらしておりました。 ケムシさんには、たずねてくれる人も誰もいないし、 たずねてゆける人も誰もいませんでした。 ケムシさんは…

はざまのカミサマ 1

むかしむかしのこと。 そのクニにはたくさんのカミサマがいました。 そのクニでは、「命はいつかはみんなカミサマになる」と思われていました。 そうです。命があるものとは、人だけではありません。 けものや蛇や虫や草木や花も、時が満ちるとカミサマにな…

はざまのカミサマ 2

はざまのカミサマの世界は、 たとえば、昼と夜のはざまの「黄昏」のように曖昧な世界です。 たとえば、夜と朝のはざまの「夜明け」のような刹那の世界です。 そんな世界に、はざまのカミサマはいつでもいます。 はざまのカミサマには三人のが従者がいます。 …

はざまのカミサマ 3

このクニで、狐がカミサマのお使いになったのは、 このクニの人たちがお米を食べるようになった頃かもしれません。 人々は、稲穂と同じ黄金色をしたケモノのことを「特別なイキモノ」だと思いました。 このクニの人々は、あらゆるモノは年を経ると「カミサマ…

はざまのカミサマ.4

「なにごとの おわしますかは 知らねども かたじけなさに 涙こぼるる」 いつか、神霊の気配に気づいた者が歌に読んだように、 神様も仏様も「この世」とつながっています。 ですから、「はざまのカミサマ」も、「この世」とつながっています。 なにしろ、は…

はざまのカミサマ.5

「それでも、はざまのカミサマは、おわします」 白狐には、黒狐の女の唇が咲いたわけがわかります。 たとえ、胡蝶と紅梅の邂逅が、刹那であろうとも。 たとえ、はざまのカミサマを信じる人びとが、根絶やしにされようとも。 白狐は「雪」と呼ばれていたこと…

はざまのカミサマ.6

仏は常にはいませども 現ならぬぞ あはれなる 人の音せぬ暁に ほのかに 夢にみえたまふ はざまのカミサマは、たそがれ時や彼は誰時には ヒトにも、その姿が見えることがあります。 たいていは、カミサマの従者たちの姿を見て、 はざまのカミサマと見間違える…

はざまのカミサマ.7

「森羅万象」という言葉があります。 「宇宙に存在する一切のもの」を表す言葉です。 はざまのカミサマの世界を表すような言葉です。 「宇宙」という言葉があります。 「宇」は、「天地・四方・上下」、 つまり「空間」を表す文字です。 そして「宙」は、「…

はざまのカミサマ 8

「いつから、私はこの姿になった?」 黒狐は自分の両肩を抱きながら思います。 「いつから、彼らはここにいる?」 黒狐は、青、赤、白狐を見回します。 彼らは、手を伸ばせば触れることができそうなほどの近さにいるように見えます。 けれども、手を伸ばして…

はざまのカミサマ 9

はざまのカミサマを中心に、東西南北をお守りする狐面。 東の狐面の色は青。顕すのは月。 南の狐面の色は赤。顕すのは花。 西の狐面の色は白。顕すのは雪。 そして、北には黒。顕すのは風。 「雪」「月」「花」というこの国の美しきものたち。 そして、その…

はざまのカミサマ 10

ニワトリが先かタマゴが先か。 という議論があります。 原因から何かの結果が生まれます。 その結果が何事かの原因となります。 大陸で生まれた「道教」の流れを組むという「陰陽道」の中に、四神という東西南北を守る神々がいます。 東に青龍、南に朱雀、西…

はざまのカミサマ 11

ニワトリが先か?タマゴが先か? 国津神の子孫らを、天津神の子孫が治める島国。 大陸からこの島国に渡ってきた渡来人たちは、神々の子孫に抑えつけられていました。 天津神や国津神の神々の子孫に対して、 例えば秦氏のように、秦の始皇帝の子孫であるとか…

はざまのカミサマ 12

はざまのカミサマの使いは人の世で何をするのでしょう? はざまのカミサマは、「もののけ」の王です。 「もののけ」とは「物の怪」とも記します。 「物」とは、あらゆる「物」をさします。 「国土草木悉皆」が「物」です。 この国土の全てが「物」なのです。…

はざまのカミサマ 13

はざまのカミサマとは、 この国の森羅万象が発する「精気」 つまり、この国の命有るもの、命無きもの、それらの全てのものが発する「精気」が集まったものなのでしょう。 その「精気」は、観る者が「理解できる形」をとります。 はざまのカミサマの使いは「…

はざまのカミサマ 14

天武天皇がこの国の名を「日本」と名付けました。 聖徳太子も「日出ずる国」と名乗ったように、 この国は、西からの視点を気にしながら生きています。 この国は、西から日本になりました。 その西日本が東日本を攻め込んでいきます。 その土地に暮らしていた…

はざまのカミサマ 15

はざまのカミサマの世の扉は、 どうやら新しい神様や新しい仏様が、 この国土にやって来る機会に開くもの そう思われていました。 初めて「仏教」というものがこの国土に伝来した時にも、 はざまのカミサマの世の扉が開いて、 秦河勝にその中を観せました。 …

はざまのカミサマ 16

「この世」と「あの世」のはざまにある「はざまの世」の扉は、実はいつでも開いています。 昔からのこの島国の民は、そのことを知っていました。 たとえば、小さな沼や森にも、「沼のヌシ」や「森のヌシ」がいました。 「ヌシ」とは「主」でもあります。 山…

はざまのカミサマ 17

仏教を知る前、この島国では あらゆる命は、死んだら「他界」に行くものだ。 と、考えられていました。 今日でも、死ぬことを「他界した」とあらわすことがあります。 死後に行く「他界」は、人々の住む地域のそばの高山や海である場合がほとんどです。 人は…

はざまのカミサマ 18

御霊神となった早良親王の名を挙げたならば、 その兄である桓武帝の名を挙げないわけにはいきません。 とはいえ、聖徳太子から桓武帝、早良親王に連なる血統は、天津神の最高神である天照大神の血統です。 天津神や国津神は、この島国に地生えの「もののけ」…

はざまのカミサマ 19

乱れた天下を静めるために、矛をとめる、つまり「武」を成す。 「天下静謐」のための「天下布武」 桓武帝が、坂上田村麻呂を用いての「天下布武」で、 日本はひとつになりました。 絶対強者である桓武帝の下で、「天下静謐」となります。 しかし、桓武帝によ…