咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

春のカミサマ.5

 それからクモは、ひたすらに、

 ミノを作りに作ります。

 

 十着まではすぐできます。

 

 二十をすぎて二十八にもなると、

 色とりどりだったミノは、

 枯葉の色になりました。

 

 

 ある夜、ひとり村長が、

 クモの様子を見に来ました。

 手を止めないクモに代わり、

 ケムシが戸口で相手をします。

 

「教えてください、村長さん」

 

 小さな声で、ケムシがいいます。

 

「もしも、ミノが間に合わなければ、

 クモさんはみんなに恨まれませんか?」

 

 さらに声を落とします。

 

「運命を変えたりしたら、

 カミサマの罰があたりませんか?」

 

 ケムシは思い切っていいます。

 

「本当はぼくがいったのです。

 『ミノがあれば』といったのはぼく。

 だから、恨みや罰ならば、

 ぼくが受けるべきなのです」

 

 

村長がうなります。

「そうか、なるほど、あのミノは、

 ケムシくんの言祝(ことほぎ)か」

 

 そして、にっこりいいました。

 

「大丈夫。恨みも罰も何もかも、

 全部私が引き受けます。

 『みんなで一緒に』といったのは私。

 何より私は村長だから」

 

 黙ってしまったケムシに、

 村長が笑って続けます。

 

「ケムシくん、クモさんを頼みます。

 私たちの希望なのだから」