夢の居る街
あるところで女の子が生まれました。 女の子のお父様は王様で、お母さまはお妃様だったので女の子はお姫様でした。 女の子は色がぬけるように白く、きれいな瞳をした可愛い子でした。 王様もお妃様も長い間待っていた初めての子供だけに、大層喜びました、 …
女の子は、びっくりしました。 けれども、まだ目がはっきり覚めてないからか、あまり怖くありませんでした。それにその男の人のことをどこかで見たことがあるような気がしましたから。 「こんばんは」 「こんばんは」 女の子は、男の人に上手にごあいさつが…
次の朝、女の子が目をさますと、窓は全て閉じられていました。頑丈な鉄格子さえあります。 昨夜のことは、全部、夢だったのかなと思いました。 それで、女の子は魔法使いのことを王様にもお妃様にもないしょにすること にしました。 けれども、その夜も、魔…
その街の外れにある星見やぐらには、星占いのおじいさんが住んでいました。 このお爺さんは、子どもと星がお話をする魔法を使うことができました。 おじいさんは魔法使いだったのです。 人は誰でも空に一つだけ「自分の星」を持っているのです。 おじいさん…
星見やぐらの下に小さなテントがあります。 そのテントの中に下がっている鈴を、リンリンと鳴らすとやぐらの上からおじいさんが降りてきてくれます。 そして、子どもと一緒に星見やぐらを登っていきます。 その街に夕闇が訪れて、おじいさんを呼ぶ鈴の音が風…
それでも、おじいさんの鈴は、時々、小さな手でりんりんと鳴らされました。 おじいさんはその子の手をひいて、星見やぐらを登って行きます。 星見やぐらの上に着いたら、子どもに目をつむらせます。 そうして口の中で呪文を唱えながら、その子の星を見つけま…
子どもにも、確かにそう聞こえたように思えました。 目を開くと、空いっぱいの星です。 その星の中の、どれが自分の星なのかはわかりません。 けれども、「自分の星」が、この空に確かにある。 そのことを信じることができました。 「ありがとう。さようなら…
夜がふけて子どもたちが眠ってしまう頃に、星占師のおじいさんは独りでタバコを一本だけ吸って、コキコキと首を回した後、星見やぐらから降りてきます。 ある夜、おじいさんがタバコに火をつけた時に、りんりんと鈴がなりました。 こんな夜更に子どもが来る…
おじいさんが何度、呪文を唱えても星からの返事がありません。 おじいさんは不思議に思いました。 そんなことは、初めてだったからです。 不安そうな男の子と一緒に、おじいさんは厚い本を調べてみました。 いろいろと調べてみました。 そして、その男の子の…
男の子が魔法使いの弟子になって3年経ちました。 男の子は立派な星占い師になっていました。 星占い師は、引退して別の街に引っ越したおじいさんの代わりに、あの星見やぐらに住んでいました。 けれども、その頃には、星とお話をしたいという子どもは、まっ…
そんなある夜、久しぶりに星見やぐらの鈴がリンリン鳴りました。 魔法使いがワクワクしながら星見やぐらからテントに降りてみると、女の子がひとりで立っていました、 たいていの女の子は、お星さまとお話するのが少し怖いから、お母さんやお父さんに連れら…
女の子の姿が街の灯りに溶け込むと、魔法使いは女の子の星を探し始めました。 自分の魔法に間違えがあったとは思えません。 それで魔法使いは、星に直接尋ねることにしました。 黒いマントに身を包んだ魔法使いは、ほうき星に乗って星から星を巡ります。 ま…
魔法使いは、あらゆる魔法を使って女の子の星を明るくしようとします。 この夜空に、自分の星が無いということがどんなに淋しいことか。 魔法使いは知っていましたから。 まず、星にお花を咲かせてみました。 ダメです、 金色や銀色に塗ってみました。 ダメ…
次の夕方、女の子が星見やぐらに来てみると、鈴のふさに手紙がついています。 「星見やぐらに登ってください」 女の子が星見やぐらに登ってみると、小さなテーブルの上にも手紙がありました。 「北の空の一番明るい星。それがきみの星です。その星はこう言っ…
バクという動物は夢を食べるといわれています。 ある街の動物園に、新しく、バクが来ることになりました。 小さな動物園で動物の数も少なかったし、みんなは、バクという動物を見たことがありませんでしたから、みんなワクワクして待っておりました。 「バク…
「みなさん」 飼育係さんがそういったとき、マイクがキイ~ンといいました。 「私はバクのことを調べに行ってまいりました。とても長く辛い旅でした」 ここで飼育係さんは大きなため息をひとつつきました。 「私はこの眼でバクを見てきました」 広場に集まっ…
その翌朝、一人の人が目が覚めた時にヘンな気がしました。 いつもと同じような朝でしたが、ちょっとだけ違う感じがしました。 そんな「ヘンな感じをする」という人が何人もでてきました。 「なんか、ヘンなんですよ」 「そう、なにか、ヘンなんです」 「どう…
園長さんは、キョトンとしましたが、すぐに真っ青になりました。 そして、やっとのことで市長さんに電話で報告しました。 その夜、市長さんの家で、市長さんと園長さんと飼育係さんの三人が会議を開きました。 そして、ひとつのことを決定しました。 その決…
その街の高い通信塔には、赤い風船がひとつうかんでいました。 今から三年前の夏に、街に初めてサーカスがやってきた時に、その風船は揚げられました。 それからはサーカスもやってきませんし、 他にこれといって嬉しいこともないまま、赤い風船は街の人々に…
赤い風船は、街で一番高い通信塔の、そのてっぺんからさらに上にいましたから、赤い風船からは街中の全てが見えました。 街中のみんなの顔が見えました。 おじいさんもおばあさんもおとうさんもおかあさんおにいさんもおねえさんもおとうともいもうとも、み…
「どうして誰もぼくを見てくれないのかな?」 赤い風船には不思議に思えました。 こちらからは、こんなに見ているのに、あちらからは、まったく見ない。 赤い風船にとって、それは大きな「なぞ」でした。 そうそう、赤い風船には、他にも「なぞ」がありまし…
風はめんどくさそうに、ちょっとつむじを巻きながら答えました. 「窓の向こう?何もないよ.いつも街にいるみんながいるだけさ。子どもと大人と老人がいるだけだよ」 風はもうひとつつむじを巻くと、どこかにいってしまいました。 風の後ろ姿を見送って、赤…
「ああ、あれは病院なんだ.それでね.ほら、あの窓は北向きにある。だから、あの窓からがお日様が見えないんだ。あの窓ぬ向こうには小さな女の子が入院している」 「入院?」 「それで、その子はお前のことを『お日さまの赤ちゃん』と呼んでいる」 「お日さ…