咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

春のカミサマ.3

 その翌朝にはミノムシが、

 冬越え用のミノを受け取りに、

 クモの家にとやって来ます。

 

 八本手足を持つクモが、

 ミノムシのミノを繕います。

 その縫い針はケムシの毛針。

 二匹で一緒に住んでいます。

 

「ミノがあれば誰だって、

 冬が越せるかも知れないね」

 

 にこにこ話すケムシの言葉に、

 クモが思わず手を打ちます。

 

「そうだ、すごいぞ、ケムシくん。

 ミノがあればバッタくんも、

 きっと冬が越せるはず」

 

 ケムシとミノムシを家に残し、

 クモはバッタの家へと全速力。

 

「冬を越せる?このぼくが?」

 

 バッタは、心底驚きます。

 

「それなら、春が見たいなあ」

 

 バッタは夏の生まれゆえ、

 春を見たことがありません。

 クモはバッタに約束します。

 

「私が、春を見せてあげる」

 

 その翌朝の夜明け前、

 クモは目を覚まします。

 家の外では虫たちの声。

 

 戸を開ければ虫たちが、

 村のみんなが揃っています。

 みんなが一緒に叫びます。

 

「私のミノを作って下さい!」

 

 

「ミノがあれば、春が見られる」

 

 あれからバッタが仲良しのマツムシに、

 マツムシがウマオイに、

 ウマオイがみんなに話したのです。

 

 クモの後ろでケムシが、

 おろおろおろおろ震えます。

 

「ぼくが『ミノ』っていったから、

 大変なことになっている」

 

 クモが大きな声をあげます。

 

「わかった。ミノを作ります!」

 

 みんなは喜び、大歓声。