咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

カミサマになったクモ・5

 クモは、小さな野原の隅にあるバッタの家へ行きました。

 バッタは、もうびっくりしてしまいます。

「冬を越せるのですか。ぼくが。ぼくが」

「とにかく私がミノを作るよ。なあに、すぐにできる。できるさ」

 クモは、にこにこいった後、少し厳しい顔を作ります。

「ただし、ミノはあくまでも冬を越す為の道具にしか過ぎない。だから、たとえ、ミノを着たとしても、長く生きることができるわけではないだろう」

「冬を越せる、のかあ」

 バッタの目が輝きます。

「それなら、春を見ることができますね」

 クモは、バッタの言葉にびっくりしながらうなずきます。

「そうか、春を見ることができるのか。そうか。ぼくは、ぼくらは夏のはじめに生まれたので、春を見たことが無いのです。でもね。春というのは暖かくて、いい匂いがして、色とりどりで、光に溢れていて、それはそれは素敵なものだって聞いたことがあります」

 夏から秋という季節を生きるバッタが、冬を越えて、そして、その先にある春を見ることができる。バッタにとっては、それだけのことが、まさに夢のようなことでした。

 何度か春を見たことがあるクモは、バッタを見て、胸が熱くなって来ました。

 その時、今まで黙っていたイナゴがおずおずと口を出します。バッタのいとこのイナゴが、最後のお別れに来ていたのです。

「その、ぼくの、あの、ミノも作っていただくことはできませんか」

「いいとも、いいとも」

 クモは目を細めます。

「さあて、そうと決まれば早い方がいい。さっそく作り始めることにしよう」

「よろしくお願いします」

 バッタとイナゴは、姿勢を正して一緒に頭をぺこりと下げます。

 クモは、晴れやかな顔をして家を出ました。

 そしてさっそく持てるだけの木の葉を集めました。

 

 その夜、クモもケムシもなかなか寝つかれませんでした。

 細いお月様が空に揺れていました。