クモは、小さな野原の隅にあるバッタの家へ行きました。
バッタは、もうびっくりしてしまいます。
「冬を越せるのですか。ぼくが。ぼくが」
「とにかく私がミノを作るよ。なあに、すぐにできる。できるさ」
クモは、にこにこいった後、少し厳しい顔を作ります。
「ただし、ミノはあくまでも冬を越す為の道具にしか過ぎない。だから、たとえ、ミノを着たとしても、長く生きることができるわけではないだろう」
「冬を越せる、のかあ」
バッタの目が輝きます。
「それなら、春を見ることができますね」
クモは、バッタの言葉にびっくりしながらうなずきます。
「そうか、春を見ることができるのか。そうか。ぼくは、ぼくらは夏のはじめに生まれたので、春を見たことが無いのです。でもね。春というのは暖かくて、いい匂いがして、色とりどりで、光に溢れていて、それはそれは素敵なものだって聞いたことがあります」
夏から秋という季節を生きるバッタが、冬を越えて、そして、その先にある春を見ることができる。バッタにとっては、それだけのことが、まさに夢のようなことでした。
何度か春を見たことがあるクモは、バッタを見て、胸が熱くなって来ました。
その時、今まで黙っていたイナゴがおずおずと口を出します。バッタのいとこのイナゴが、最後のお別れに来ていたのです。
「その、ぼくの、あの、ミノも作っていただくことはできませんか」
「いいとも、いいとも」
クモは目を細めます。
「さあて、そうと決まれば早い方がいい。さっそく作り始めることにしよう」
「よろしくお願いします」
バッタとイナゴは、姿勢を正して一緒に頭をぺこりと下げます。
クモは、晴れやかな顔をして家を出ました。
そしてさっそく持てるだけの木の葉を集めました。
その夜、クモもケムシもなかなか寝つかれませんでした。
細いお月様が空に揺れていました。