咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

春のカミサマ・4

 その翌日も素晴らしくいいお天気でした。

 真赤に染まった木の葉に柔らかな秋の陽がさしていました。

「おはようございます」

 ミノムシが、にこにこにこにこやって来ました。

 クモもケムシも、昨晩の帰りが遅かったので、久しぶりに朝寝坊をしてしまっていました。

「なんだか音楽祭が終わると、本当にすぐ冬が来るみたいな気がするね」

「ははは。ところでクモさん、おれの冬支度はできていますか」

「ああ、もうできあがっているよ」

 クモがきれいに繕ったミノをミノムシに渡します。

「ありがとうございます。なにしろおれは、このミノのおかげで、冬を越せるものですから」

「今年は冬が厳しいそうだから、ぼくにもひとつミノを作ってもらおうかな」

 ケムシが真顔で言いました。クモが笑いました。

「ははは。そうだね。ミノがあればきっと、もっと、楽に冬を越せるね。ミノさえあれば誰だって」

 クモはそういって手を打ちます。

「そうだ、ミノだ。どうして今まで気づかなかったのか」

 クモはミノを掲げます。

「ミノだよ。ミノがあればバッタくんも冬を越せるかもしれない」

 クモは話しているうちに大興奮。

「とにかく、バッタくんに知らせてくるよ」

 クモは、ささっと駆け出しました。

「ふふふ。こんな時、おれたちは足手まといだね」

 ミノムシの苦笑にケムシも苦く笑います。

「ミノムシさん、あのね」

 ケムシは、ひとつ深呼吸をした後で話し始めました。