咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

神様になったくも

神様になったくも.1

冬の静かな夜にはこんな話しがあります。 ある所に虫の村がありました。人間の町があるのですから、虫の村もあります。 そして、そこに、クモの仕立屋さんがおりました。 この仕立屋は8本の手足を使い、上等の糸で仕事をするので、たいそうはんじょうしてい…

神様になったくも. 2

「どうしたんだい。中におはいりよ」 声をかけてくれるのは、クモさんといっしょに住んでいるケムシのおじいさんでした。クモさんは、ケムシさんの毛を針に使っていました。 「ああ」 クモさんは、ふりむいて暗い部屋に入りました。 冷たくなった秋風が、ク…

神様になったくも.3

翌日も、昨日と同じ、高い秋空の日でした。 クモさんもケムシさんも、何もなかったような顔をして黙っておりました。 クモさんは、朝早くから忙しそうに仕事をしていました。 誰でも、 悲しいことや、せつないことがあった時には、何かを一所懸命にやるもの…

神様になったくも.4

それからしばらくして、音楽会の日がみんなに伝えられました。 いつもの年よりも早い音楽会でした。 音楽会までの問、クモさんもケムシさんもいつもと同じ様に、つまりクモさんは一日に10回はお茶を飲んで、ケムシさんは一日中パイプをふかしてくらしてい…

神様になったくも.5

その翌日も素晴らしくいいお天気でした。 真赤に染った木の葉に柔らかな秋の陽がさしておりました。 「おはようございます」 ミノムシ君がにこにこしながらやって来ました。 昨晩帰りがおそかったので久しぶりに朝寝坊をしてしまったクモさんは、朝のお茶の…

神様になったくも.6

そしてそれからすぐに、お茶をぐいっと飲みほして、ちいさな野原のすみにあるバッタ君の家へ行きました。 バッタ君は、もうびっくりしてしまいました。 「冬がこせるのですか? ぼくが? ぼくが?」 バッタ君は、もうあきらめていたのでした。 そのための音…

神様になったくも.7

翌日、 がやがやという虫達の声で、二人は目をさましました。 まだお日様が登りきっていないような早い朝でした。 クモさんとケムシさんは何だろうと思って戸を聞けてみると、家の前にはコオロギ君やスズムシ君たちがいっぱい来ていました。 「どうしたんで…

神様になったくも.8

それからクモさんは、朝早くから夜遅くまで、ひたすらミノを作りました。 ケムシさんが用意してくれた食事やお茶も、そのまま冷たくなっていることがしばしばありました。 十着目までは、すぐできました。 二十着をすぎて二十八着目になると、それまで赤や黄…

神様になったくも.9

いつもの年よりも早い初雪が、村に積っていました。 悪い夢でもみているような気になったケムシさんは、おおいそぎでバッタ君の家へ行きました。 それから村長の家へ、コオロギ君達、みんなの家へ。 みんなは、雪にたえられるほど、強くはありませんでした。…

神様になったくも.10

その年の冬はとても厳しいものでしたが、それでも春はやって来ました。 バッタ君達が夢にみていたような、素敵な春でした。 春がすぎて、ひまわりの花がまっしぐらに太陽をめざすようになった頃、 バッタ君達の子供が生まれました。 コスモスの花が、 はにか…

神様になったくも.11

ケムシさんは、毎日毎日、遠くから聞こえてくる虫達の声に、 みんなのことを思い出して、 そして、クモさんのことを思い出してくらしておりました。 ケムシさんには、たずねてくれる人も誰もいないし、 たずねてゆける人も誰もいませんでした。 ケムシさんは…