神様になったくも.8
それからクモさんは、朝早くから夜遅くまで、ひたすらミノを作りました。
ケムシさんが用意してくれた食事やお茶も、そのまま冷たくなっていることがしばしばありました。
十着目までは、すぐできました。
二十着をすぎて二十八着目になると、それまで赤や黄色のきれいな木の葉が入っていた蓑が、みんな枯葉色になりました。
ある晩、木枯しの音にまじってクモさんの家のドアを、ノックする音がありました。
誰だろうと思ってケムシさんが開けて見ると、村長のトノサマバッタが外に立っていました。
「今晩は、夜遅くすみません」
「今晩は、どうしました?」
「いえ、別にどうってことは。 その、クモさんはまだお仕事ですか?」
「ええ。呼びましょうか?」
「いえいえ。お仕事のおじゃまになると大変ですから」
「そうですか。あ、お茶でもいかがですか?」
「いえ。すぐ失礼しますから。あの、それでどうです。お仕事は進んでいますか?」
「ええ、毎晩遅くまでやっていますからね。あと十着とちょっとですよ」
「そうですか」
トノサマバッタは、にっこりしました。
「そうですか、もうすぐですね」
「ええ、もうすくですね」
村長さんの笑顔を見て、ケムシさんはやさしくいいました。
「それでは失礼します。クモさんによろしくお伝え下さい。」
「そうですか、それじゃあ、おやすみなさい」
トノサマバッタは、またにっこりしました。
「神さまにみえますよ。 クモさんが」
そういってトノサマバッタは、木枯しの中を肩をすくめながら帰って行きました。
静かな夜でした。
家の中からはクモさんが作る木の葉の音が聞こえてくるだけでした。
それからもクモさんの仕事は続きました。
クモさんひとりが、みんなの運命を変えることができるのでした。
クモさんはもう夜もほとんど眠らず、食事もケムシさんが無理に食べさせなければ、 仕事ばかりしておりました。
いよいよ四十着をすきると、枯れ葉は固くなってしまっていて、クモさんの仕事ははかどらなくなりました。
けれどもクモさんは、手に血をにじませながら蓑を作り続けました。
「あと少し」
クモさんは笑いました。
四十六着目がやっとできた夜遅く、村に初めての雪が降りました。
仕事に夢中だったクモさんもケムシさんも、雪には気がつきませんでした。
ただ、今夜はとても寒いと思っただけでした。
翌朝、いよいよ四十七着目を作りだしたクモさんの背中を見ていたケムシさんは、これで最後だとなんとなく安心して、疲れた頭をふって外に出てびっくりしました。