咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

カミサマになったクモ・23

「これはね。みんなが春を見る為のものだ」

 ミノ蛾はいいます。

「春ってなんですか」

 トノサマバッタがたずねます。

「春はねえ、とても素敵なものだよ」

 みんな、わかったような、わからないような。

「そして、これはね」

 ミノ蛾は、言葉を探します。

「これはねえ、カミサマがみんなに下さったものだよ。そう、カミサマがね」

「あなたがカミサマなの」

 バッタは首をかしげながらたずねました。

 ミノ蛾は、子どもたちにこれまでの物語を話しました。

 

 バッタたちの亡き骸を包んだミノを、ケムシは、春が来たら回収していました。

 あの赤い花が咲いたら、冬は終わりです。

 春が来て、みんなの亡き骸が土に還ったあと、正しくは蟻などの土の中の生きものが、みんなの亡き骸を連れ去った後に、ケムシはミノを回収していました。

 そうしないと、みんなの亡き骸だけではなく、枯葉でできたミノも土に還ってしまうのです。

 蟻などの生きものたちは、木の葉には見向きもしませんが、目に見えない何かは、木の葉の亡き骸である枯葉を土に還してしまいます。

 ケムシはひたすらにミノを回収して、小石の隙間にある、クモと一緒に暮らした家の奥の部屋に大切に保存したのでした。

 そのミノを、今、ケムシが村の子どもたちに託したのでした。

 

 ミノ蛾は、音楽祭の夜からの村に起きた一部始終を物語ました。

「カミサマみたいだったよ」

 ミノ蛾はそういって、話しを終えました。

 みんなは 黙って聞いていました。

 いつしか夕暮れがきていました。