「これはね。みんなが春を見る為のものだ」
ミノ蛾はいいます。
「春ってなんですか」
トノサマバッタがたずねます。
「春はねえ、とても素敵なものだよ」
みんな、わかったような、わからないような。
「そして、これはね」
ミノ蛾は、言葉を探します。
「これはねえ、カミサマがみんなに下さったものだよ。そう、カミサマがね」
「あなたがカミサマなの」
バッタは首をかしげながらたずねました。
ミノ蛾は、子どもたちにこれまでの物語を話しました。
バッタたちの亡き骸を包んだミノを、ケムシは、春が来たら回収していました。
あの赤い花が咲いたら、冬は終わりです。
春が来て、みんなの亡き骸が土に還ったあと、正しくは蟻などの土の中の生きものが、みんなの亡き骸を連れ去った後に、ケムシはミノを回収していました。
そうしないと、みんなの亡き骸だけではなく、枯葉でできたミノも土に還ってしまうのです。
蟻などの生きものたちは、木の葉には見向きもしませんが、目に見えない何かは、木の葉の亡き骸である枯葉を土に還してしまいます。
ケムシはひたすらにミノを回収して、小石の隙間にある、クモと一緒に暮らした家の奥の部屋に大切に保存したのでした。
そのミノを、今、ケムシが村の子どもたちに託したのでした。
ミノ蛾は、音楽祭の夜からの村に起きた一部始終を物語ました。
「カミサマみたいだったよ」
ミノ蛾はそういって、話しを終えました。
みんなは 黙って聞いていました。
いつしか夕暮れがきていました。