咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

春のカミサマ.4

 今度は、自分のミノを頼もうと、

 みんながみんな、大騒ぎ。

 

 その時トノサマバッタ村長の、

 大きな声が響きます。

 

「我らが冬を越せぬのは、

 カミサマの定めた理(ことわり)なり」

 

 みんなは揃って姿勢を正し、

 一斉に村長に注目します。

 

「音楽祭は終わった。

 だから我らはこのままに、

 土に還る運命なのだ」

 

 静まり返ったその中で、

 キリギリスの声がします。

「それでも、春を見てみたい」

 

「春を見るなんて夢、

 夢にもみたことはなかった」

 と、コオロギが。

 

「けれども、もう、その夢を、

 みんながみんな、みてしまった」

 と、スズムシも。

 

 

「ミノさえあれば、その夢がかなう」

 

 そういうクツワムシに、

 村長はやさしく尋ねます。

 

「そうだね。だけども、そのミノが、

 間に合わなかった虫はどうなるの?」

 

 みんなは本当に静まりかえります。

 

「そこでこれはどうだろう。

 我らは、一緒に死を覚悟した仲間。

 だから、一緒に春を見よう」

 

「それはどういうことですか?」

 

 尋ねるクモに村長が、

 みんなを見ながらこたえます。

 

「ここにいるのはみんなで四十七匹。

 この全員分のミノができた時に、

 みんなで一緒に受け取りたいのです」

 

 小さな拍手が始まって、

 みんながみんな拍手します。

 

 クモはバッタに確かめます。

 

「それでいいかな?バッタくん」

 

 バッタはしっかりうなずきます。

 

「そうか、わかった。わかりました。

 みんなに、春を見せましょう」

 

 こぶしを上げるクモを見た、

 みんなが起こす大歓声。