今度は、自分のミノを頼もうと、
みんながみんな、大騒ぎ。
その時トノサマバッタ村長の、
大きな声が響きます。
「我らが冬を越せぬのは、
カミサマの定めた理(ことわり)なり」
みんなは揃って姿勢を正し、
一斉に村長に注目します。
「音楽祭は終わった。
だから我らはこのままに、
土に還る運命なのだ」
静まり返ったその中で、
キリギリスの声がします。
「それでも、春を見てみたい」
「春を見るなんて夢、
夢にもみたことはなかった」
と、コオロギが。
「けれども、もう、その夢を、
みんながみんな、みてしまった」
と、スズムシも。
「ミノさえあれば、その夢がかなう」
そういうクツワムシに、
村長はやさしく尋ねます。
「そうだね。だけども、そのミノが、
間に合わなかった虫はどうなるの?」
みんなは本当に静まりかえります。
「そこでこれはどうだろう。
我らは、一緒に死を覚悟した仲間。
だから、一緒に春を見よう」
「それはどういうことですか?」
尋ねるクモに村長が、
みんなを見ながらこたえます。
「ここにいるのはみんなで四十七匹。
この全員分のミノができた時に、
みんなで一緒に受け取りたいのです」
小さな拍手が始まって、
みんながみんな拍手します。
クモはバッタに確かめます。
「それでいいかな?バッタくん」
バッタはしっかりうなずきます。
「そうか、わかった。わかりました。
みんなに、春を見せましょう」
こぶしを上げるクモを見た、
みんなが起こす大歓声。