「大変なことになったね」
「村の虫たちみんなに、春をみせるなんて、間違いなく、カミサマの罰があたりますよ」
こんどの夢は、クモの家です。
村長との約束で、村のみんなのミノを作ることになったクモが、木の葉の調達に外に出ている間に、ミノムシが糸をはきだしながら、ケムシと話していた時の記憶です。
「いや、村の虫全部のミノを作るとなると、これは、やはり、運命でしょう。カミサマから、クモさんに与えられた使命だよ」
「そうですか。そうであれば良いのですが」
「そもそも、クモさんは、みんなの命を引き伸ばそうとしているのではなく、みんなに春を見せようとしているだけだよね」
「いやあ、それは、へ理屈ではないですか」
「とにかく、世にも稀なクモが、選ばれしクモが、おれたちのクモさんのことね。ケムシの針を持ち、木の葉を縫うミノムシの糸を持つというたぐいまれなるクモが、カミサマに与えられた使命なのだよ。きっとそうだ。そうに決まっている」
「だったら、いいのですが」
ケムシがごくりといいます。
「もしも、カミサマに背くのであれば、ぼくらは、クモさんを止めなくてはならないのではありませんか」
「止める。クモさんを。あのクモさんを」
ミノムシが首を横に振ります。
「それは、無理だ」
「いや、無理でもなんでも、止めなければ」
「あのね。もしも、仮におれたちがクモさんを止められたとして、バッタくんたちに春を見せることができなくなったクモさんは、どうなる」
「それは」
ケムシは口ごもりながらも、目を上げていいます。
「でも、カミサマの罰が」
「クモさんならきっというね。『それでも、バッタくんたちと春をみたい』って」
ミノムシがきっぱり。
「そして、クモさんは笑う」
ミノムシは、そこで、目が覚めました。
ミノムシがぶら下がっている枝が、北風に揺れています。
見下ろすと、ケムシがミノムシの方を見上げています。
ケムシがいる広場には、沢山のミノが置かれています。
「ミノだ。ああ、ミノができたのだ」
ミノムシが胸を躍らせて目を凝らすと、様子が変です。
ミノはみんなの体の上に置かれているようです。
つまり、みんなはミノムシのように、ミノにくるまってはいません。
なにより、みんなの中心にいるクモはぴくりとも動きません。
「待てよ。もしかしたら、あれは、みんなの亡き骸か。これは、夢か」
ミノムシは足元の光景に、思わず目をつむります。