咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

カミサマになったクモ・17

「大変なことになったね」

「村の虫たちみんなに、春をみせるなんて、間違いなく、カミサマの罰があたりますよ」

 こんどの夢は、クモの家です。 

 村長との約束で、村のみんなのミノを作ることになったクモが、木の葉の調達に外に出ている間に、ミノムシが糸をはきだしながら、ケムシと話していた時の記憶です。

「いや、村の虫全部のミノを作るとなると、これは、やはり、運命でしょう。カミサマから、クモさんに与えられた使命だよ」

「そうですか。そうであれば良いのですが」

「そもそも、クモさんは、みんなの命を引き伸ばそうとしているのではなく、みんなに春を見せようとしているだけだよね」

「いやあ、それは、へ理屈ではないですか」

「とにかく、世にも稀なクモが、選ばれしクモが、おれたちのクモさんのことね。ケムシの針を持ち、木の葉を縫うミノムシの糸を持つというたぐいまれなるクモが、カミサマに与えられた使命なのだよ。きっとそうだ。そうに決まっている」

「だったら、いいのですが」

 ケムシがごくりといいます。

「もしも、カミサマに背くのであれば、ぼくらは、クモさんを止めなくてはならないのではありませんか」

「止める。クモさんを。あのクモさんを」

 ミノムシが首を横に振ります。

「それは、無理だ」

「いや、無理でもなんでも、止めなければ」

「あのね。もしも、仮におれたちがクモさんを止められたとして、バッタくんたちに春を見せることができなくなったクモさんは、どうなる」

「それは」

 ケムシは口ごもりながらも、目を上げていいます。

「でも、カミサマの罰が」

「クモさんならきっというね。『それでも、バッタくんたちと春をみたい』って」

 ミノムシがきっぱり。

「そして、クモさんは笑う」

 

 ミノムシは、そこで、目が覚めました。

 ミノムシがぶら下がっている枝が、北風に揺れています。

 見下ろすと、ケムシがミノムシの方を見上げています。

 ケムシがいる広場には、沢山のミノが置かれています。

「ミノだ。ああ、ミノができたのだ」

 ミノムシが胸を躍らせて目を凝らすと、様子が変です。

 ミノはみんなの体の上に置かれているようです。

 つまり、みんなはミノムシのように、ミノにくるまってはいません。

 なにより、みんなの中心にいるクモはぴくりとも動きません。

「待てよ。もしかしたら、あれは、みんなの亡き骸か。これは、夢か」

 ミノムシは足元の光景に、思わず目をつむります。