咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

カミサマになったクモ・9

 

 それからクモは大急ぎでミノムシのところに行きます。

 冬眠に入る前に、ミノムシに、ミノムシの糸をもらうためです。

 固い木の葉をつなぎ合わせてミノを作るには、クモの糸よりも強力なミノムシの糸が必要なのです。

 バッタとイナゴのミノだけならば、クモがミノムシのミノ作りのために貰っていた糸の残りで足りますが、村の虫たち全員のミノとなると、ミノムシの糸がとても足りません。

 クモはミノムシの糸の調達に走ります。

 幸いなことにミノムシはまだ、冬眠に入っていませんでした。

 ミノムシは、大急ぎでクモの家に走ります。

 クモが大量のミノムシ糸を持って移動するよりも、ミノムシが、クモの家で糸をはきだした方が理にかなっているからです。

「ははは。おれもみんなの夢を叶えるためのお役に立てるとは、なんて愉快だ」

 ミノムシは走りながら何度も笑います。

 クモは、何もいわずに、ミノムシの前を走ります。

 

 ケムシは足が遅いのでお留守番です。

 もちろん、ケムシにも、ケムシにしかできないことがあります。

 そうなのです。固い木の葉をぬい合わせるには、ケムシの毛の針が必要です。

 とはいえ、ケムシの毛は、一度抜いてしまえば、二度と生えて来ません。

 こうして、村の虫たち全員分のミノ作りの準備が、とりあえず整いました。