みんなの後姿を見送りながら、クモは呟きます。
「大変なことになった。どうしよう」
みんなの夢を叶えるような力が自分にあるのか。
みんなの運命を変えるような、そんな大それたことが、自分にできるのか。
「私は、ただ、バッタくんともう少しだけ一緒にいたかっただけなのに」
ふと、振り返ると、クモの後ろでケムシが自分の毛を抜いていました。
ケムシは満身の力を込めて毛を抜きます。
汗を浮かべたケムシが、クモの顔を見つめて、 ぽつりといいました。
「クモさん。消えていってしまうものを必要以上に儚んではいけないのですよね。ミノを作ることは、バッタくんたちを、儚むことにはならないのでしょうか」
クモはまた、みんなが去った方を見ます。
そして、こわばった笑顔でケムシにいいました。
「みんな、春を夢みる笑顔だった。あの笑顔にこたえたい」
また、みんなが去った方を見ました。
「ぼくは、クモさんがやりたいことをやって欲しい。それだけ」
ケムシは、クモの背中にいいました。
胸いっぱいの秋に、ふと、気の早い北風が戸口の前を吹き抜けて行きました。