咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

カミサマになったクモ・7

 その時です。

 黙ってみんなを見つめていた、村長のトノサマバッタが大声をだします。

「待ってくれ、私の話を聞いてくれ」

 みんなは一斉に村長を見ました。

「私の話を聞いてほしい。私たちは音楽祭も終わって、本当ならばこのままお別れする運命なのだよ」

「だからこそ、ミノがほしいのです」

 ウマオイが叫び、みんなも叫びます。

「待ってくれ、聞いてくれ。たしかにミノがあれば、もしかしたら、春を見ることができるかもしれない。運命が変わるのかもしれない」

 トノサマバッタの声が響きます。

「けれども、みんながみんな、春を見ることができなかったら、どうだろう」

「どういうことですか」

 コオロギが問います。

「つまり、もし、誰かのミノができた時に冬が来てしまったら、それから後の順番のものたちは、どうなるのだろうか。もしも、目の前で、夢が叶うか、叶わないかの境界線がひかれてしまったとしたら、どうだろう」

 トノサマバッタは、みんなの顔をゆっくり見渡しながら続けました。

「あるものは夢が叶う、けれども、夢が叶わないものがいる。今までは一緒だったものたちが、境界線のこちら側とあちら側に別れてしまう」

 村長が呼吸をひとうはさみます。

「そうなれば、たとえ、夢が叶ったとしても悔いが残るのではないかな。ミノが間に合ったものが、うしろめたさを覚えるかもしれない。そうなったら、もしかしたら、夢が叶ったものの方が辛い思いをするかもしれない」

 みんなは、静まりかえって村長の話を聞きます。

「じゃあ、どうすれば良いの」

誰かの声に、トノサマバッタが答えます。

 「そこでどうだろう。みんなで一緒に春を見ようじゃないか。もしも運命が変わるのだとしたら、みんなで一緒にそれを受け容れようじゃないか」

「それは、どういうことですか」

 今まで黙って聞いていたクモが尋ねます。

 トノサマバッタは、クモの方を向きます。

「ここに四十七匹の虫がいます。みんな一度は自分の運命を一緒に受け容れた仲間です。家族です。もちろん私も」

 トノサマバッタは、みんなの顔を見回してからクモに言います。

「だから,みんなで一緒にミノを着たいのです。四十七着のミノができた時、はじめてミノを受け取りたいのです」

 トノサマバッタがみんなに向かいます。

「みんな、それでどうだろうか」

 みんなの中から拍手が起こり、みんながみんな拍手しました。

「どうでしょう。クモさん。四十七着のミノを、お願いできますか」

「わかりました。引き受けましょう。でもバッタくんはそれでいいのかな」

「ぼく、ひとりで春を見ても、淋しいだけですよ」

 バッタはにっこり笑いました。

「そうか、わかった。わかりました」

 クモは、しっかりとうなずきました。

 それを見てみんなは、また、大歓声を上げました。

 そして賑やかにそれぞれの家に帰って行きました。