その時です。
黙ってみんなを見つめていた、村長のトノサマバッタが大声をだします。
「待ってくれ、私の話を聞いてくれ」
みんなは一斉に村長を見ました。
「私の話を聞いてほしい。私たちは音楽祭も終わって、本当ならばこのままお別れする運命なのだよ」
「だからこそ、ミノがほしいのです」
ウマオイが叫び、みんなも叫びます。
「待ってくれ、聞いてくれ。たしかにミノがあれば、もしかしたら、春を見ることができるかもしれない。運命が変わるのかもしれない」
トノサマバッタの声が響きます。
「けれども、みんながみんな、春を見ることができなかったら、どうだろう」
「どういうことですか」
コオロギが問います。
「つまり、もし、誰かのミノができた時に冬が来てしまったら、それから後の順番のものたちは、どうなるのだろうか。もしも、目の前で、夢が叶うか、叶わないかの境界線がひかれてしまったとしたら、どうだろう」
トノサマバッタは、みんなの顔をゆっくり見渡しながら続けました。
「あるものは夢が叶う、けれども、夢が叶わないものがいる。今までは一緒だったものたちが、境界線のこちら側とあちら側に別れてしまう」
村長が呼吸をひとうはさみます。
「そうなれば、たとえ、夢が叶ったとしても悔いが残るのではないかな。ミノが間に合ったものが、うしろめたさを覚えるかもしれない。そうなったら、もしかしたら、夢が叶ったものの方が辛い思いをするかもしれない」
みんなは、静まりかえって村長の話を聞きます。
「じゃあ、どうすれば良いの」
誰かの声に、トノサマバッタが答えます。
「そこでどうだろう。みんなで一緒に春を見ようじゃないか。もしも運命が変わるのだとしたら、みんなで一緒にそれを受け容れようじゃないか」
「それは、どういうことですか」
今まで黙って聞いていたクモが尋ねます。
トノサマバッタは、クモの方を向きます。
「ここに四十七匹の虫がいます。みんな一度は自分の運命を一緒に受け容れた仲間です。家族です。もちろん私も」
トノサマバッタは、みんなの顔を見回してからクモに言います。
「だから,みんなで一緒にミノを着たいのです。四十七着のミノができた時、はじめてミノを受け取りたいのです」
トノサマバッタがみんなに向かいます。
「みんな、それでどうだろうか」
みんなの中から拍手が起こり、みんながみんな拍手しました。
「どうでしょう。クモさん。四十七着のミノを、お願いできますか」
「わかりました。引き受けましょう。でもバッタくんはそれでいいのかな」
「ぼく、ひとりで春を見ても、淋しいだけですよ」
バッタはにっこり笑いました。
「そうか、わかった。わかりました」
クモは、しっかりとうなずきました。
それを見てみんなは、また、大歓声を上げました。
そして賑やかにそれぞれの家に帰って行きました。