翌朝、 虫たちの、がやがやがやがやで、クモとケムシは目を覚ましました。
まだお日様が登りきっていないような早い朝です。
戸を開けてみると、家の前にはコオロギやスズムシたちみんなが来ていました。
「どうしたのですか。いったい」
クモが顔を出したのを見て、みんなは口々に叫びます。
「ぼくにもミノを作って下さい」
「おれにも」
「私にも」
あれからコオロギが、はしゃいでいるバッタとイナゴに会ったのでした。ミノの話は、コオロギからあっという間にみんなに広まったのです。
みんながみんな、だれも「春を見る」などということは、夢にさえみたことはありません。冬には虫たちの命が終わる。それが虫たちの運命です。それが「理」です。
なにより、この世を去る前に互いに別れを告げる為の音楽祭も、もうすでに終りました。
ところが、ミノがあれば、夢にもみたことがない春を見ることができるかもしれない。
そう思うと、もう、いてもたってもいられなくなって、誰からともなくこうしてクモの家にやって来たのでした。
とはいえ、虫たちは、「長く生きたい」と思ったわけではありません。みんなは、ただただ、「春を見てみたい」と思っただけなのです。
みんなは必死でした。みんなの声は、悲鳴のようにも聞えました。
「わかりました」
クモが叫びました。
「ミノを作りましょう」
みんなはそれを聞いて一瞬、静まり返り、それから大歓声をあげました。
みんなの歓声に、桔梗の林が揺れました。
みんなは、今度は、我先に自分のミノを頼もうとして大騒ぎになりました。