咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

カミサマになったクモ・6

 翌朝、 虫たちの、がやがやがやがやで、クモとケムシは目を覚ましました。

 まだお日様が登りきっていないような早い朝です。

 戸を開けてみると、家の前にはコオロギやスズムシたちみんなが来ていました。

「どうしたのですか。いったい」

 クモが顔を出したのを見て、みんなは口々に叫びます。

「ぼくにもミノを作って下さい」

「おれにも」

「私にも」

 あれからコオロギが、はしゃいでいるバッタとイナゴに会ったのでした。ミノの話は、コオロギからあっという間にみんなに広まったのです。

 みんながみんな、だれも「春を見る」などということは、夢にさえみたことはありません。冬には虫たちの命が終わる。それが虫たちの運命です。それが「理」です。

 なにより、この世を去る前に互いに別れを告げる為の音楽祭も、もうすでに終りました。

 ところが、ミノがあれば、夢にもみたことがない春を見ることができるかもしれない。

 そう思うと、もう、いてもたってもいられなくなって、誰からともなくこうしてクモの家にやって来たのでした。

 とはいえ、虫たちは、「長く生きたい」と思ったわけではありません。みんなは、ただただ、「春を見てみたい」と思っただけなのです。

 みんなは必死でした。みんなの声は、悲鳴のようにも聞えました。

「わかりました」

 クモが叫びました。

「ミノを作りましょう」

 みんなはそれを聞いて一瞬、静まり返り、それから大歓声をあげました。

 みんなの歓声に、桔梗の林が揺れました。

 みんなは、今度は、我先に自分のミノを頼もうとして大騒ぎになりました。