咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

カミサマになったクモ・2

 

 翌日も、昨日と同じ高い秋空の日でした。

 昼下りの秋の柔らかい日差しが木の葉にあたるのを、クモとケムシがぼんやりと眺めていると、ミノムシがやって来ました。

 ミノムシは冬を越す為のミノをクモに繕ってもらうのです。

 みんなは秋の日差しの入って来る部屋に入りました。

 クモがミノの点検をしている間、ミノムシは最近聞いた村のできごとを、面白おかしく話します。

「ところで知っていますか。音楽祭の日が早まること」

「早くなる。それはまたなぜ」

「今年は冬のカミサマのお出ましが早くなりそうなのでね。村長のトノサマバッタがいっていましたよ。『音楽祭の前にみんながいなくなっちゃあ、話しにならない』ってね」

 音楽祭というのは、村の虫たちが年に一度だけみんな集まって合唱するお祭りです。

 そのお祭りは「さようならの音楽祭」とも呼ばれます。

 そのお祭で、みんなで一緒に合唱する曲こそが、冬が来ればこの世を去る虫たちが、最後に歌う曲でもありました。

 そしてお祭りが終われば冬になってしまうのです。虫たちの声の無い世界になるのでした。

 音楽祭の話題に、みんなは黙りこんでしまいました。

 いつしか、お日様も傾いています。

「さあて、そろそろ帰らなければ」

 ミノムシがあわてたようにそういって立ち上がります。

「それじゃあ、ミノの繕いをよろしく頼みます。そうだ。音楽祭には、おれも一緒に連れていって下さい」

「ああ、そうしよう」

 クモとケムシもゆっくりと立ち上がって、ミノムシを戸口まで送りました。

 ミノムシが帰ってしばらくして、晴れていた空がぼんやりと曇って来ました。そうして夜になると冷たい雨が降って来ました。冷たい雨は一晩中降り続きました。

 

 それからしばらくして、音楽祭の日程がみんなに伝えられました。

 いつもの年よりも早い音楽祭でした。

 音楽祭までの間、村は音楽祭のうわさでもちきりでした。

 指揮者のバッタなどは、どこの家でも大歓迎されました。

 みんなにとって音楽祭はとても大切なお祭りでしたから。

 

 いよいよお祭りの夜がやって来ました。

 空いっぱいの星の下で、音楽祭が始まります。

 クモもケムシもミノムシも、みんなも来ていました。

 バッタをはじめとして、イナゴ、キリギリス、マツムシ、スズムシ、コオロギ、クツワムシ、ウマオイたちもいます。

 月が傾いて、音楽祭は終わりました。

 みんなはそれぞれの家へ、いろんなおしゃべりをしながら帰って行きました。

 クモとケムシは、黙って月夜の道を歩いておりました。

 暗い夜道を月明かりだけが照らしてくれます。