咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

春のカミサマ.14

  ケムシは目を覚します。

 

 なんと、ケムシの身体には、

 蟻が群がっていました。 

 蟻たちはケムシの身体を、

 地中に運び込もうとしています。

 

 けれどもケムシは動けません。

「ああ、このままではみんなとの、

 約束が果たせない」

 

「ケムシさんを放せ」

 そこに飛び込んできたのは、

 クモの息子でした。

 

 隣村まで飛んできた、

 ミノ蛾が伝えた、父の物語。

 

 自分の村の虫たちにも、

 ミノを作ろう、春を見せよう。

 

 そのミノを作るため、

 ケムシの毛針を得るために、

 息子は故郷に帰って来たのです。