咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

カミサマになったクモ・15

 ケムシは、クモを葬りました。

「クモさん。ぼくは、まだまだ、ケムシのままだよ」

 ケムシはそれから、バッタを、トノサマバッタを、みんなを葬りました。

 ケムシは虫たちの亡き骸を、小石や木の葉のない剝き出しの地面に横たえます。

 それが、虫たちのお弔いです。

 やがて、虫たちの亡き骸は、地中の世界の生きものたちによって、土の中に還ります。

 空の虫も地上の虫も、そして、地中の虫さえも、その亡き骸は地中の生きものの命を繋ぐ糧となるのです。

 この時期の亡き骸は、特に地下の生きものが冬を越すための、大切な命の糧となるのでした。

 ケムシは、みんなの亡き骸の上に、ミノをおきます。

「ミノムシさん、ぼくらは、こんな運命だったみたいです」

 ケムシは、広場の真ん中の樹の枝からぶら下がって眠っている、ミノムシを見上げていいます。

 ミノムシはゆらゆら風に吹かれています。

 こうしてケムシは、また、ひとりぼっちになりました。