咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

春のカミサマ.9

「これはミノだよ」

 

 枯葉の山から突然、声が聞こえて、

 みんなは飛び上がります。

 

 よくよく見ると枯葉色の翅の怪物が、

 枯葉の山の上にいます。

 

「おれはミノ蛾で、元はミノムシ。

 さっきの怪物はケムシくん」

 

 ミノムシといういきものは、

 春になったらミノを脱ぎ、

 翅を持つ蛾になるものです。

 ミノムシ時代に見てきたことを、

 ミノ蛾は話して聞かせます。

 

「ケムシの姿が変わってないのは、

 クモさんに託されたから。

 そして、おそらくこのオレも、

 何かを託されているはずだ」