2023-12-10 春のカミサマ.15 春のカミサマ そのクモが見たものは、 ケムシの変わり果てた姿でした。 大きなクモに襲われて、 蟻は逃げてしまいます。 「ああクモさん。また会えた」 笑ったケムシが見たのは、 息子のクモか。それとも。 まさにその時も時。 ケムシの身体が二つに割れて、 黒い翅が現れました。 ケムシは蝶になったのです。 蝶は激しく羽ばたいて、 部屋の壁にぶつかります。 思わず、クモが戸を開けます。 蝶は羽ばたき、外へ出ます。 夜と朝とのはざまのかわたれ時。 闇を破った暁の中、 黒い蝶が舞い上がります。 高く、高く、舞い上がります。