咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

春のカミサマ.15

 そのクモが見たものは、

 ケムシの変わり果てた姿でした。

 

 大きなクモに襲われて、

 蟻は逃げてしまいます。

 

「ああクモさん。また会えた」

 

 笑ったケムシが見たのは、

 息子のクモか。それとも。

 

 まさにその時も時。

 

 ケムシの身体が二つに割れて、

 黒い翅が現れました。

 

 ケムシは蝶になったのです。

 

 蝶は激しく羽ばたいて、

 部屋の壁にぶつかります。

 

 思わず、クモが戸を開けます。

 

 蝶は羽ばたき、外へ出ます。

 

 夜と朝とのはざまのかわたれ時。

 闇を破った暁の中、

 黒い蝶が舞い上がります。

 高く、高く、舞い上がります。