咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

春のカミサマ.16

 すると、かわたれ時の空から、

 白いものが舞い降ります。

 

「まさか、今ごろ、雪なのか?」

 

 見上げるクモの上に舞い降りてきた、

 咲いたばかりの桜の花びら。

 

 暁に舞うのは、

 小さな、小さな桜吹雪。

 

 春の曙の光の中。

 黒い蝶が起こした桜吹雪が、

 村長が眠る家の戸を叩きます。

 

「春が来たよ」と知らせます。