秋も深まった晴れた昼下がりでした。
ケムシは家の戸を叩く音に戸を開けました。
「クモさん」
開いた戸の向こうを見たケムシは、そういって立ちすくんでしまいます。
そこには、あの懐かしいクモが立っていたのでした。
「クモさん」
ケムシは戸を大きく開いて、クモを家の中に招き入れます。
「ああ、クモさんだ。クモさんがいる。クモさんだ」
クモがちいさく笑います。
笑うクモにケムシも笑います。
そこに声がしました。
「ケムシさま、郵便でございます」
郵便屋のバッタです。
バッタもケムシには緊張して、こわばった声を出します。
「ケムシさま、良い知らせでございますよ。隣村のクモさんからです」
バッタの声に、ケムシの前のクモがぺこりお辞儀します。
「はじめまして。ケムシさん、ぼくです。クモの息子です」
ケムシは一瞬息を吞むと、大きくうなずきます。
「ああ。息子さんかあ。隣の村に住む」
ケムシが、あははは笑います。
「はは。そうか。クモさんの体の方が、郵便よりも先にここに届いてしまったということだ」
そして、ケムシはバッタにいいました。
「バッタさん、こちらが隣村のクモさん。この村にいたクモさんの息子さんです」
「え。こちらさまが、あのカミサマになったクモさまの息子さまですか」
バッタは少し口を開けて、その場に立ちつくしてしまいます。
「バッタさん、すみませんが、ミノムシさんを呼んで来てくださいな。隣村のクモさん、あのクモさんの息子さんが来てくれました。ってね」
バッタはかくかくとうなずくと飛んでいきました。
クモが改めてケムシに挨拶します。
「あの。おかげんはいかがですか。伺ったりして、ごめいわくではなかったでしょうか。あの、もう、お年ですし。すみません。いきなり来てしまって」
「ああ。今日はほんとうに良い日だ」
ケムシはどっかり座って笑います。
「ほんとうに、ほんとうに、よくきてくれました」