神様になったくも.7
翌日、 がやがやという虫達の声で、二人は目をさましました。
まだお日様が登りきっていないような早い朝でした。
クモさんとケムシさんは何だろうと思って戸を聞けてみると、家の前にはコオロギ君やスズムシ君たちがいっぱい来ていました。
「どうしたんですか?いったい」
クモさんはびっくりしていいました。
クモさんとケムシさんが顔を出したのを見て、みんなは口々にいいました。
「ぼくにもミノを作って下さい」
「ぼくにも」
「私にも」
クモさんは二度びっくりしました。
どうしてみんながミノのことを知っているのか、わかりませんでした。
実はみんなは、はしゃいでいるバッタ君とイナゴ君に会ったのでした。
バッタ君が夢みるように。
「春が見れるんだ」
というのを聞いたコオロギ君が、くわしい話しを聞いて、それがみんなに広まったのです。
みんながみんな、もうあきらめておりました。
そのための音楽会はおとといに終ったのでした。
けれどもやっぱり望みがあると思うと、もういても立ってもいれなくて、誰からともなくこうしてクモさんの家にやって来たのでした。
みんなは必死でした。まるでこわれそうな瞳をしておりました。
クモさんとケムシさんは顔を見合せました。
みんなの声は、悲鳴のようにも聞えました。
「わかりました」
クモさんが大声でいいました。
「約束します。みんなのミノを作りましょう」
みんなはそれを聞いてホッとしましたが、今度は、先に自分のミノを頼もうとして大騒ぎになりました。
その時です。今まで静かにみんなをみつめていた村長のトノサマバッタが大声でいいました。
「ちょっと待ってくれ、私の話しを聞いてくれ」
みんなは卜ノサマバッタをいっせいに見ました。
「私の話しを聞いてほしい。私たちはすべてのための音楽会も終って、本当ならばこのまま死んでゆくはずなのだよ」
「だからこそミノがほしいんだ」
ウマオイ君が叫び、みんなも叫びました。
「待ってくれ、聞いてくれ。たしかにミノがあれば、私たちの運命が変わるかもしれない。けれども、みんながみんな、運命が変わるわけじゃないとしたら、どうだろう」
みんな黙りこみました。
「もし、誰かのミノができた時に冬が来てしまったら、それから後の順番の者は、どうだろう」
トノサマバッタは、みんなの顔をゆっくり見渡しながら続けました。
「そうなれば、残る者にもこの世を去ってしまう者にも、悔いが残るのではないかな。いや、残る者のほうがつらいかもしれない」
みんなは、静まりかえってトノサマバッタの話しを聞いておりました。
「そこでどうだろう。みんなでいっしょに、この運命の変化に乗ろうじゃないか。もし運命が変わるとしたら、みんな同時にそれを受けようじゃないか」
「それは、どういうことですか?」
今まで黙って聞いていたクモさんがたずねました。
村長のトノサマバッタは、クモさんの方を向きました。
「つまり、ここに四十七匹の虫がいます。 みんな一度は自分の運命をいっしょに知った仲間です。もちろん私も。だからみんなでいっしょにミノを着たいんです。四十七着のミノができた時、はじめてミノを受け取りたいんです。」
みんなの中から拍手が起こり、みんながみんな拍手しました。
「どうでしょう。クモさん四十七着のミノを、お願いできますか?」
クモさんは考えました。
もし間に合わなかったら。
けれども、これができるのはクモさんだけなのでした。
「わかりました。引きうけましょう。でもバッタ君はそれでいいのかな?」
「ぼくひとりで春を見ても、しょうがありませんよ」
バッタ君はにっこり笑いました。イナゴ君も隣りでうなずきました。
「そうか、わかった。わかりました」
クモさんは、しっかりとうなずきました。
その時初めてケムシさんがにっこり笑ってうなずきました。
それを見てみんなは歓声を上げて、それぞれの家へ飛ぶように帰って行きました。
みんなの後姿を見送っているうちに、クモさんは急に不安になりした。
みんなの夢をかなえるような力が、自分にはあるのだろうか。
ケムシさんが、クモさんの顔をみつめて、 ぽつりといいました。
「やれるよ。いや、やるしかないよ」
「そうだね。 やるしかないね」
胸いっぱいの秋に、ふと気の早い北風が戸口の前を吹き抜けて行きました。