そしてそれからすぐに、お茶をぐいっと飲みほして、ちいさな野原のすみにあるバッタ君の家へ行きました。
バッタ君は、もうびっくりしてしまいました。
「冬がこせるのですか? ぼくが? ぼくが?」
バッタ君は、もうあきらめていたのでした。
そのための音楽会はもう終っていましたから。
そんなバッタ君に、クモさんとケムシさんとみの虫君が、かわるがわるに説明しました。
「とにかく私がミノを作るよ。なあに、すぐにできる。できるさ」
クモさんは、もうにこにこ顔でいいました。
「冬がこせる、のかあ」
バッタ君は、まだぼんやり顔でいいました。
「それなら、春が見れるのか」
バッタ君は目がさめたような顔で、クモさんにいいました。
「それなら、春が見れるんですね」
クモさんは、びっくりしてうなずきました。
「そうか、春が見れるのか、そうか。ぼくは夏になって生まれたんで、春を見たことがないんですよ。春か。いろんな花が咲くんですってね。春か。とても素敵なんですってね」
クモさんもケムシさんもミノムシ君も、なんだか胸が熱くなって来ました。
「そうだよ。とても素敵だよ。春って」
ケムシさんが静かにいいました。
「あのう」
その時、今まで黙っていたイナゴ君がおずおずと口を出しました。
バッタ君のイトコのイナゴ君が、 最後のお別れをいいに来ていたのでした。
「その、できれば、ぼくの、あの、ミノも作っていただきたいんですけど」
「いいとも、いいとも」
クモさんは目を細めながらいいました。
イナゴ君は飛びあがって喜びました。
そしてバッタ君と二人で大はしゃぎしました。
二人がはしゃいでいるのをにこにこしながら見ていたクモさんは、ちょっときびしい顔をしていいました。
「さて、そうと決れば早い方がいい。さっそく作りはじめることにしよう」
ケムシさんもうなずきました。
「よろしくお願いします。」
バッタ君とイナゴ君は、姿勢を正して頭をペコリとさげていいました。
クモさんとケムシさんとミノムシ君は晴れやかな顔をして家を出ました。
「クモさん」
ミノムシ君が赤くなりながらいいました。
「私の口からいうのもなんですけど、その、よろしくお願いします」
「はい、はい」
クモさんは明るく笑いながらうなずきました。
ケムシさんも微笑んでうなずきました。
ミノムシ君と白菊の丘で別れて、クモさんとケムシさんはウキウキとした歩どりで帰って行きました。
そしてさっそく二人で持てるだけの木の葉を集めました。
その夜、二人はワクワクしてなかなか寝つかれませんでした。
細いお月様が空にゆれておりました。