咲きも残らず 散りもはじめず

今日見ずは くやしからまし 花ざかり 咲きも残らず 散りもはじめず               ー満開に咲く花を歌った古歌よりー

神様になったくも.9

 いつもの年よりも早い初雪が、村に積っていました。

 

 悪い夢でもみているような気になったケムシさんは、おおいそぎでバッタ君の家へ行きました。

 それから村長の家へ、コオロギ君達、みんなの家へ。

 みんなは、雪にたえられるほど、強くはありませんでした。

 ケムシさんは、目の前がまっ暗になって、消えてなくなりそうな姿で家に帰りつきました。

 家の中では、クモさんが、何も知らずに一所懸命最後の蓑を作っています。

 クモさんは歌うようにいっています。

「あとひとつ、あとひとつ」

 ケムシさんは、戸を開けたままクモさんの背中をみつめています。

「クモさん。」

「ん? なんだい。ケムシさん」

  クモさんは、うしろをふりむきもしません。

「もういいんだよ。クモさん、もうオシマイなんだ」

  ケムシさんの言葉は、最後は声にはなりませんでした。

「なんだって」                              

 クモさんは、ふりかえりました。

 その時、クモさんは、外の白いべールに気づきました。

「ケムシさん」

「クモさん、もういいんだよ。終ったんだ。なにもかも終ったんだ」

 ケムシさんは、目を閉じたまま、くりかえしました。

「そんな。これで最後だっていうのに。そんな」

 クモさんは、くらくらしながら首を振りました。

 そして最後のミノに顔をうずめました。

 クモさんの瞳には、みんなの顔が閉じこもっていました。

 一所懸命生きて、その証しのために一所懸命歌ったあの晩の顔が。

 クモさんの肩が震え出しました。

 ケムシさんは、そっと戸を閉めした。

 外では降り止んでいた雪がしきりに降り始めておりました。

 

 それから何日もたたないうちに、クモさんはこの世を去りました。

 無理を重ねていたクモさんも、悲しみにたえるほど強くはなかったのでした。