いつもの年よりも早い初雪が、村に積っていました。
悪い夢でもみているような気になったケムシさんは、おおいそぎでバッタ君の家へ行きました。
それから村長の家へ、コオロギ君達、みんなの家へ。
みんなは、雪にたえられるほど、強くはありませんでした。
ケムシさんは、目の前がまっ暗になって、消えてなくなりそうな姿で家に帰りつきました。
家の中では、クモさんが、何も知らずに一所懸命最後の蓑を作っています。
クモさんは歌うようにいっています。
「あとひとつ、あとひとつ」
ケムシさんは、戸を開けたままクモさんの背中をみつめています。
「クモさん。」
「ん? なんだい。ケムシさん」
クモさんは、うしろをふりむきもしません。
「もういいんだよ。クモさん、もうオシマイなんだ」
ケムシさんの言葉は、最後は声にはなりませんでした。
「なんだって」
クモさんは、ふりかえりました。
その時、クモさんは、外の白いべールに気づきました。
「ケムシさん」
「クモさん、もういいんだよ。終ったんだ。なにもかも終ったんだ」
ケムシさんは、目を閉じたまま、くりかえしました。
「そんな。これで最後だっていうのに。そんな」
クモさんは、くらくらしながら首を振りました。
そして最後のミノに顔をうずめました。
クモさんの瞳には、みんなの顔が閉じこもっていました。
一所懸命生きて、その証しのために一所懸命歌ったあの晩の顔が。
クモさんの肩が震え出しました。
ケムシさんは、そっと戸を閉めした。
外では降り止んでいた雪がしきりに降り始めておりました。
それから何日もたたないうちに、クモさんはこの世を去りました。
無理を重ねていたクモさんも、悲しみにたえるほど強くはなかったのでした。